2025.11.06 [インタビュー]
「僕にとって映画はテーマではなく、状況や空間が大事なのです」公式インタビュー『ノアの娘』

東京国際映画祭公式インタビュー 11月1日
アジアの未来
ノアの娘
アミルレザ・ジャラライアン(監督/脚本/プロデューサー・右)、カティ・サレキ(俳優・左)
ノアの娘

©2025 TIFF

 
テヘランからイラン南部の静かな島に来た若い女性は、キャンプを張り静寂に浸る。年配の女性と親密な会話を交わし、若い男性と生と死についての対話を行う。彼女の行動を追うシンプルな設定のもと、アミルレザ・ジャラライアン監督は島に横溢する空気を映像に捉えようと試みる。エンジニアから映画製作に転じた監督の初めての長編作。短編で培った手法を活かしながら、映像に自らの思いを託し、世界を再構築する。イラン映画の新鋭のひとりだ。
 
 
──作品をとても興味深く拝見しました。この作品の芽はどのように生まれたのですか。
 
アミルレザ・ジャラライアン監督(以下、ジャラライアン監督):難しい質問ですね。この作品はさまざまな経験、思い出から育まれました。核は島なのです。ペルシャ湾の中の島。その島に行ったことがあって、2年前も、ひとりでキャンプをして映画と同じような感じで過ごしました。島の思い出が集まって、ひとつのキャラクターが生まれました。
ノアの娘
 
──他人に分からせるのに苦労する内容だと思いました。
 
ジャラライアン監督:観る方たちにどうやって分からせるか以前に、まず、スタッフや役者にどう分からせるか悩みました(笑)。プロデューサーたちと話す時には自分の体験を話しますが、アイデアと芸術性と、相手が納得できるバランスを取らないとうまくいかないと思います。今回のような作品を作るにあたっては、自分でもよく分からないんですがOKをもらえましたね(笑)。
 
──脚本をもとに演じられる女優さんとしては、途方に暮れたりはしなかったのですか。
 
カティ・サレキ(以下、サレキ):いただいた脚本を読んで、監督にどう思う?と聞かれた時、私は感想をいろいろ喋ったんです。監督は、よく理解してくれたと驚いていました。この映画は、何も起きないけれど、感情や気持ちで理解できる話で、「禅」みたいな作品なのです。各人でそれぞれ違うかもしれませんが、この映画から何かしら得られるものがあるのではないかと思います。
ノアの娘
 
──描かれる世界に漂っている空気を楽しむ映画だと思います。監督としては気持ちを伝える努力をどのようになさったのですか?
 
ジャラライアン監督:今、空気とおっしゃいましたが、皆さんがそういうふうにこの映画を見てくれたら嬉しいと思っていました。この映画はテーマではなく、状況や空間が大事なのです。
今回は長編ですが、これまで短編を撮ってきて、少人数で作品を撮るのに慣れているので、今回も同じようなやり方にしようと思いました。これまで一緒に仕事をしてきたスタッフもいて、私の世界をよく理解する方たちが集まってくれました。女優はオーディションをしました。彼女が有名な女優だと知っていましたが、これまで一緒に仕事をしたことはありませんでした。今となっては、彼女が入ってくれて本当に良かったと思います。
 
──監督を信頼する人たちが集まって世界を作っていくというやり方は、短編をやっていくうちに出来上がったのですか?
 
ジャラライアン監督:短編は、自分のことを分かって信用している人たちと一緒に作ってきましたが、それと同じようにこの作品も撮影しました。撮影監督、プロダクションマネージャーもずっと一緒にやってきた人です。こういった脚本は、商業映画の人たちが読んでも分からないと思うので、私の世界を知っている人たちじゃないとまとまりません。
 
──監督は、自分の世界を理解させるまで厳しく指示するタイプですか? それとも、そういう世界が生まれるまで待つタイプですか?
 
サレキ:最初はみんなにどう思う?って聞きますが、最終的には独裁者になります(笑)。
 
ジャラライアン監督:ヒッチコックや黒澤明やジョン・フォードは、カメラ位置を決めると絶対に動かすのを許さないと聞いたことがあります。自分は、自分のスタイルがあるからそうはならないと思っていました。自分が決めたことについてはみんなにも意見を尋ねます。ただ、尋ねた結果、やはり自分の考えが一番良いと思い至りました(笑)。
 
──この作品はどれぐらいの期間で撮影されたのですか。
 
ジャラライアン監督:14日間です。短編の体験や経験がすごく役立ちました。イランでは、長編が初めての監督でも2か月で撮っているのにです。私たちは短編撮影の経験の上で計算しました。この作品では、1シーン6、7分の長回しを4、5テイク撮ったこともありますが、2週間という短い時間で自分が考えたものをまとめて撮り終えたのは、短編製作の経験があったからだと思います。
 
──もともと監督は工学部で学ばれて、正反対ではないですが、表現の世界に来られました。これは何か理由がおありになったんですか?
 
ジャラライアン監督:いわゆる良い大学で工学部を良い成績で卒業しましたが、いつも、ここは私のいる場所じゃないと思っていました。それで、大学1年生の頃から短編小説を書き始めました。どんどんのめりこんで、小説の書き方を学び、ストーリーをたくさん書きました。卒業の時に小説の方にいこうと考えましたが、自分の世界を映像にしたくなって、自然にそちらの方向にいったのです。
 
──この世界に入る前から映画が好きだったのですね。
 
ジャラライアン監督:ハリウッド映画の冒険ものなどは好きでよく観ていましたが、芸術的な映画はそんなに観ていませんでした。それから少しずつ映画に興味が湧いてきて、ヨーロッパの監督たちとか、日本の黒澤明とか勅使河原宏、ロベール・ブレッソン、ジャン=ポール・メルヴィルとか、そういう世界を知ろうとして敢えて観るようにしました。今、自分が一番観て感動しているのはエリック・ロメールです。彼の世界と私の世界は似ているなと感じています。
ノアの娘
 
──女優としていろいろな監督と仕事されてきたと思いますが、ジャラライアン監督にはどんな印象をお持ちになりましたか。
 
サレキ:これまで様々な映画に参加しましたが、大半がしっかりした物語があり、セリフも多いものでした。脚本を読めばだいたいその監督がどんな人か分かるものですが、今回の脚本を読んだ時、監督は一体どういう方なのだろうと思いました。
自分の人生の中では、物事というのは偶然に起こるわけではなくて、神様が選んで回ってくるものだと思っています。この現場に行ったらとても楽しい現場でしたし、出来上がったものを観て、なおさら神様の力を信じたのは正しいと思いました。
 
──今作は長編第1作ということですが、これからは長編専門にいかれる予定ですか?
 
ジャラライアン監督:これからも、長編をゆっくりと作っていこうと思っています。今書いている脚本も、ひとつのシーンの長回しは今作のものより長いです。けれど、こうした作品は誰も出資してくれないという問題があるので、これくらいの長さのものはやめたほうがいいかなとも思っています。ただ、自分の頭の中にある言いたいことを絞るのは大変なので、これからも長編を撮っていくと思います。
 

インタビュー/構成:稲田隆紀(日本映画ペンクラブ)
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