2025.11.04 [イベントレポート]
池田エライザ、審査委員長を務めた東京国際映画祭「エシカル・フィルム賞」を通して「心が救われた」
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第38回東京国際映画祭で、映画を通して環境、貧困、差別といった社会課題への意識や多様性への理解を広げることを目的とする「エシカル・フィルム賞」の授賞式が11月4日に開催。審査委員長の池田エライザと審査員を務めた学生応援団によるトークセッションが行われた。

2023年に新設された「エシカル・フィルム賞」。東京国際映画祭にエントリーされた全て新作映画の中から、「人や社会・環境を思いやる考え方・行動」という「エシカル」の理念に合致する3作品がノミネートされ、池田と3人の学生審査員が受賞作を選出した。

今年は、西アフリカの国々の内戦と少年兵の実態をアニメーションで描いた『アラーの神にもいわれはない』、社会福祉の仕事に従事しながらも経済的、精神的に追い込まれたシングルマザーが性風俗の世界に足を踏み入れるさまを描く『キカ』、ブラジルの貧民街で、アルツハイマー病の祖母の介護をしながらも友人たちの助けを得ながら明るく生きる主人公を描く『カザ・ブランカ』の3作品がノミネートされ、審査の結果『カザ・ブランカ』が受賞作に決まった。

『カザ・ブランカ』のルシアーノ・ビジガル監督は来日が叶わなかったが、ビデオで「『カザ・ブランカ』は黒人映画であり、ファヴェーラ(ブラジルのスラム街)から生まれた映画です。この作品は人々の視点から新しいブラジルを描こうとしています。映画を通して詩を語り、ファヴェーラや黒人の身体に宿る力強さを示したいと思っています。そこには愛情があり、詩があり、生命の輝きがあります。この受賞はブラジル映画界が壁を越え世界とつながることができるという証でもあります」と喜びと感謝のメッセージを寄せた。池田は授与の場で「私たちにブラジルの優しい、そして深い愛情を届けてくださり、そして、この映画との出会いを作ってくださり本当にありがとうございました」と感謝と祝福の言葉を伝えた。

トークには池田と、学生応援団のメンバーとして審査に臨んだ魚住宗一郎、須藤璃美、津村ゆかが登壇。池田は同賞の選考について「何がエシカルかという判断基準は人それぞれだと思うので、映画に込められている願い、祈りは何なのかをまず読みとること。エシカル部門というと、世界や人々のことなど、たいそうなことだと感じちゃうけど、人それぞれエシカルというものは違うと思ったので、なるべくみんなの意見を聞いてまとめていくべきと思いました」と方向性について説明した。

審査を終えて、魚住は「審査会というのは初めての経験で、友達との間で映画の評価を言い合うことはあっても、公的な立場で映画を評価することの重大さが、かなりのしかかってきました」と明かす。池田も「3作品のどれも素晴らしかったからこそ、甲乙つけがたく、我々の意見で「これを薦める」というプレッシャーはありました」と同調する。

須藤は「雰囲気が好きとか、キャラクターが面白いとかとは違う視点で映画を見ることが新鮮でした。見ている最中も、いままでにないくらい真剣に見せていただいて、鑑賞後も「この場面は何だったのか?」とか「このキャラクターは何を言いたかったのか?」などと考えるいい機会になりました」と振り返った。

津村は「優劣つけるってできないというのが正直な感想でしたが、最初にエライザさんが「個人的なことは社会的なことだよ」と言ってくれて、私たちがどう感じたかをそのまま伝えてほしいし、いま何を学んで、何を見てきたのかも教えてほしいと言ってくれて、プライベートな視点で判断していいんだなと肩の荷が下りました」と明かした。

トークでは、ノミネートされた3作品それぞれの魅力について4人は熱く語り合ったが、扱っている社会事象もテーマも作風も異なり、それぞれに高いクオリティを持つがゆえの審査の難しさを改めて感じさせた。

その中で、受賞作の『カザ・ブランカ』は、メディアなどを通しても、ブラジル社会における貧困や犯罪の温床のように語られることが多いファヴェーラを舞台にしながらも、そうしたイメージとは異なる愛情あふれるドラマを届けてくれる作品であり、介護やヤングケアラーといった日本社会にも関係のあるテーマを扱った作品である。

須藤は「介護やヤングケアラーって重いな…、誰かを支えるってすごい負担なんじゃないか?と思っていたんですが、(映画を見て)思いやりというのは犠牲を払うことからじゃなく、愛情から生まれるものなんだと知ったし、自分の中にそういう偏見があったことに気づかされました」と本作によって視点や価値観の転換がもたらされたと語る。

魚住は「(候補作の)『キカ』は(ヒロインが)周りに助けを求めることができない話でしたが、『カザ・ブランカ』は迷うことなく周りに助けを求められる――友達や身近な人同志の助け合いの尊さを感じました。優しさにあふれる作品であり、心に刺さりました」とその魅力を語った。

津村は「みんな、家賃も払えないくらい貧しいけど、「人を助ける」という性質が備わっている。私は石川県の出身で、能登地震の時に何もできなかったやるせなさがあって、いろんな理由で「行けないな」「助けられないな」と思っていたけど、そうじゃなかったと思わせてくれる作品で、「思うこと」や「手を差し伸べること」が大事なんだと思いました」とまさに“自分事”として本作に惹きつけられたと明かした。

池田は「『キカ』や『アラーの神にもいわれはない』は愛に飢えていたり、愛を見失っていて、そこから「愛ってどういうものだっけ?」という問いがあったけど、この『カザ・ブランカ』は初期装備に、もう愛があって、愛情が作品の土台にあるっていうことが、こんなにも人の心を満たし、豊かにしてくれるんだなと感じました。それは、自分が東京という閉鎖的な環境の中で、お隣さんの顔も知らない中で生活しているからこそかもしれません」と本作の魅力を強調した。

池田は同賞に関わることで「私自身、俳優・映画監督として関わらせていただいていますが、個人的にずっと悩んでいることがあって、映画を通して世間の役に立ちたい、誰かを救いたいという思いを体現していくのは遠回りで、自分自身がボランティアに行ったほうが早いんじゃないか? と悩み続けています。今回、エシカル・フィルム賞の委員長のお話をいただいた時、この悩みも映画を通して、映画の必然性、必要性を再確認にできたら、私にとっても素晴らしい機会になるんじゃないか? という秘かな願いもあってお受けしました。エシカル・フィルム賞だからこそ、映画を通して私も心が救われたし、こうやって手を差し伸べていくことは可能だと再確認できました。これからもこの才能あふれる監や、クリエイターのみなさまに嫉妬しながら、女優業、監督業に邁進していきたいと思いました」と決意を口にしていた。

第38回東京国際映画祭は11月5日まで開催。
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