2025.10.28 [イベントレポート]
内田英治監督、現場を共にしたい俳優は「信頼できる人、何かを秘めている人」
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日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝いた『ミッドナイトスワン』の内田英治監督の最新作『ナイトフラワー』のワールドプレミア上映が10月28日、第38回東京国際映画祭で行われ、上映後に内田監督、吉條英希プロデューサーが観客とのQ&Aに臨んだ。

内田監督の原案・脚本で、北川景子を主演に迎えた本作。過酷な状況の中で生きるためにドラッグの密売人となったシングルマザーと、彼女のボディガードをすることになった女性格闘家の友情を描き出す。

一般の観客には初めてのお披露目となったが、上映が終わると会場は拍手喝さい。借金取りに追われてドラッグの売人となるシングルマザー、孤独を抱える女性格闘家など、過酷な状況の中で生きる登場人物たちの姿が描かれるが、内田監督は自身の作品づくりについて「日の当たるキャラクターより日のないところで一生懸命に生きているキャラクターが好き」と語る。

観客からは、キャスティングする際に重視していることについて質問が出たが「昔、映画をつくり始めた頃は、いま思うと、役者さんをあまり信用していなかったなと思います。映画は演出主導で進むものだと思っていた時代があって、それが10年経ち、僕ら(スタッフ)の仕事は役者さんのバックアップをする仕事だと気づいたんですね。役者が現場で出すアイデアや芝居、その場の雰囲気で出てくる内面的な気持ちなどがすごく大事で、僕らはそれをバックアップすればいいという時代を経て、いまに至ります。なので、キャスティングの部分で、政治的なキャスティングとか人気のある人とかいろいろあるけど、なるべく自分が信頼できる人、もしくは何かを秘めていて、それが現場で爆発することをお目にかかれるかもしれないという期待を持てる人にお願いしたい。僕自身が、マジックが起こる現場を見たいと思っていて、そういう部分を持っている方をキャスティングするように最近はしています」と説明する。

吉條プロデューサーは『ミッドナイトスワン』を見て感銘を受け、内田監督と仕事がしたいと思ったという。初めて目の当たりにした内田監督の現場について「最初に『ミッドナイトスワン』を見た時、なぜ役者さんや画面から出てくるものが、こんなにナチュラルでリアリティがあるのか? まるでドキュメンタリーを見ている気分になったんですが、内田さんの現場を見てわかったのは、内田さんがすごく穏やかで、現場が変にピりついてないんです。穏やかな監督の人柄がそのまま現場にあり、誰もが落ち着いて芝居できるんです。そして、物理的に監督と役者の距離感がすごく近くて、安心して演者がお芝居できるのを感じました」と振り返る。

『ミッドナイトスワン』ではバレエが題材となっており、本作でもバイオリンに打ち込む少女の姿が描かれるが、こうした点について内田監督は「『ミッドナイトスワン』で10歳未満のバレエダンサーを目指しているこどもを取材させてもらい「こんな厳しい世界があるのか…」と思いました。このコンプライアンスの時代に、骨格とか親の資産とかが関係してくるし、みんな死に物狂いで世界を目指してるんです。本当に特殊な世界で、それはバイオリンの世界も一緒で、若い頃の、日本の子どものバイオリニストの映像を見たりして、クラシックの厳しい世界で生きているこどもたちにすごく興味があります」と明かす。

さらに吉條プロデューサーは、バイオリンのシーンに関するエピソードを披露。劇中、子役の渡瀬結美が演じる少女・小春が、レベルの高いバイオリン教室で演奏する子を見て、ショックを受けるシーンがあるが「渡瀬結美ちゃんは、あの年齢では日本トップクラスのバイオリニストなんですが、あの時に(小春が)見た女性は年齢が少し上で、リアルにうまい子を置いているんです。あのシーンでは実際、(渡瀬は)打ちひしがれていて、それが表情に表れています」と明かす。内田監督は、バレエやバイオリンができる人間を俳優としてキャスティングする大変さにも触れつつ「バイオリンとかバレエを懸命にやってきてる子は、演技ののみ込みがハンパないです。普段から必死でやっているから努力をなんとも思わないんですね。集中力もそもそも備わっているし、クラシックはすごく興味深い世界です」と渡瀬の演技を絶賛していた。

Q&Aの最後に内田監督は「去年、アメリカに行ったり、ヨーロッパのいろんな国にも行ったんですが、映画の衰退を肌で感じました。当然、配信の時代になっていくんですが、でもこうやってスクリーンで観る映画、良い文化だなって思います。ぜひスクリーンで見る映画を応援していただきたいですし、この映画はオリジナル作品ですが、日本では5%以下でみなさんの応援がないとあっという間になくなっていく文化ですので、ぜひオリジナル映画も応援していただきたいです」と語り、海外から映画祭を訪れた人々に向けて「Please enjoy TOKYO!」と呼びかけた。

第38回東京国際映画祭は、11月5日まで開催。
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