第38回東京国際映画祭で10月28日、香港の映画監督ソイ・チェンの
マスタークラスが東京・丸の内ピカデリーで行われ、チェン監督が自らのキャリアを振り返った。
この日のマスタークラスは、今年1月に日本公開され、ロングランヒットを記録した『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』上映後に実施。日本の観客の前に立ったチェン監督は、「1年近く経っているのにまだ映画を観に来てくださるなんて……東京国際映画祭には感謝するばかりです」と感激した様子だった。
1991年に撮影現場のスタッフとしてキャリアをスタートさせたチェン監督は、映像の世界で着実に経験を積み重ね、2001年の『ノイズ』で監督デビュー。その後もホラー、恋愛、コメディ、犯罪映画など、さまざまなジャンルの映画をわたり歩く。そして2006年の『ドッグ・バイト・ドッグ』から暗黒暴力美学の萌芽(ほうが)が見られるようになったのでは、という司会の映画評論家・くれい響氏の指摘に、チェン監督は深くうなずく。
「この作品は私にとってとても重要な作品。この作品を通して、この世の中を見る方法、あるいは自分が見たものをどういう風に表現するのか、その方向性を見つけたわけなんです。そこで何を見たのかと言うと、非常にダークで腐敗した世界、絶望、希望がない世界。そういったものを自分の美学を通して表現するという方法を見つけたわけです」。
そして翌年には日本のコミックを原作とする『軍鶏 Shamo』を発表する。「実はこれはもっとも皆さんに話したかった映画でした。この映画は日本と非常に密接な関連があるんです。自分の大好きな日本の漫画を映画化したんですが、はっきり言ってこれは失敗作でした。あまりにも好きすぎて、盛り込みすぎてしまった。だから翻案するときに重荷になってしまった……。でもこの失敗からいろんなことを学んで、後の作品にどんどん反映させていくことができたから感謝しているんです。そして(原作者で同作の脚本を務めた)橋本以蔵先生にも本当に感謝しています。先生とはいろんな交流ができて、いろいろと話をすることができましたから」と振り返る。
その後、08年には香港映画界の巨匠ジョニー・トーらが率いる映画制作会社「ミルキーウェイ・イメージ(銀河映像)」に参加し、ルイス・クー主演の『アクシデント』や、ショーン・ユー主演の『モーターウェイ』などを発表することになる。「ここでわたしは改めて映画の持つ価値を再認識することができました。これはジョニー・トー監督のおかげ」と感謝するソイ・チェン監督だが、トー監督との企画開発については「正直、その過程は非常に苦痛でした。これは少し言い過ぎかもしれないですが、とにかく厳しいんです。まだ脚本ができる前の段階、つまりアイデア、あるいはプロットを持って行くんですが「うん、ダメだね」。それを繰り返し繰り返し、二十数回も繰り返される。皆さん、想像できますか? この苦痛を」と冗談めかしながら、思わず苦笑い。結局1年半かけても脚本が完成しないこととなり、トーが「もういいよ、撮り始めよう。撮りながら考えればいいじゃないか」ということもあったという。
また、初めてカーチェイスに挑むこととなった時は、予算が足りなかったため、スピード感よりも、独自のスタイルでカーチェイスを撮影したこともあったが、完成したラッシュ映像を見て「これはダメだ。ひどすぎる」とがくぜんとし、モニターを壊してしまいたい衝動にかられたという。だが、トーが自己資金を投じて撮り直しの予算を捻出し、「また好きなようにいくつかのシーンを撮っていいよ」と告げ、再チャレンジの機会を与えてくれた。当初、トーは7~8日もあれば撮り直しは可能だろうと思っていたというが、ソイ・チェン監督は「16日間ほしい」と要求。トーはあきれながらも、チャンスを与えてくれた。「プロデューサーとしての彼の姿勢は本当に素晴らしいんです」。
中国本土の大型映画産業に参入し、超大作『西遊記』シリーズを手がけることになった際には、大きな葛藤も抱いたという。「巨大な規模の作品づくりという制作過程を学ぶことはできたが、クリエイターとしての成長はあまり感じられなかった。自分はこういったジャンルの映画を撮り続けるのかと……むしろ、自分自身を見失ってしまった時期だったかもしれない」。そこで「もう一度、自分自身の好きなテーマ、個人的な作品でも構わないから、もう一度自分自身を見つけ出そうと。それが『リンボ』という作品だった」。モノクロのノワール・スリラーを撮るにあたり、「繰り返し自分に問いかけるわけです。お前は本当に映画が好きなのか? 映画作りは好きか? どうして映画を撮りたいんだ? と。『リンボ』という作品があったからこそ、今の自分がいると思う」。
そしてその先に生まれたのが『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』だった。この作品について語り始めたチェン監督は「皆さん、『トワイライト・ウォリアーズ』の話をするとニコッと笑ってくれるんですけど、どうしてですか?」と笑いながらも、「ここで言えることは、続編は間違いなく撮ります。実は来年3月にクランクインする予定が決まってます。ただ上映がいつになるのかは分かりません。なぜなら、ポストプロダクションとか、いろいろな作業があるからです。だから取りあえずは続編を撮って、その後に前日譚(たん)も撮ります。脚本はもうすでにあって、この2つの脚本は今、皆さんがご覧になった映画と非常に密接な関連性を持っている。とにかくできるだけ早く続編を撮り終えて、皆さんにお見せしたいと思っております」。
そして最後のコメントを求められたソイ・チェン監督は「自分の人生を振り返ると、何度も自分を見失ったり、落ち込んだりした時期があって。結局人生は山あり谷ありで、それは創作活動も全く同じことなんです。時々迷い、自分を見失ってしまうが、その結果として生まれたものが、意外と良いものだったりする。そういったことは、人生において繰り返し起きることだと思う。皆さんもきっとそうでしょう。実はこの『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』も、わたしが自分自身を見失い、迷って、迷って、その末にできた結果なんです。そして、それが意外にも皆さんに喜んでいただけている。だから自分は本当にラッキーだと思っています」としみじみと語った。
第38回東京国際映画祭は10月27日~11月5日、日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開催。
第38回東京国際映画祭で10月28日、香港の映画監督ソイ・チェンの
マスタークラスが東京・丸の内ピカデリーで行われ、チェン監督が自らのキャリアを振り返った。
この日のマスタークラスは、今年1月に日本公開され、ロングランヒットを記録した『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』上映後に実施。日本の観客の前に立ったチェン監督は、「1年近く経っているのにまだ映画を観に来てくださるなんて……東京国際映画祭には感謝するばかりです」と感激した様子だった。
1991年に撮影現場のスタッフとしてキャリアをスタートさせたチェン監督は、映像の世界で着実に経験を積み重ね、2001年の『ノイズ』で監督デビュー。その後もホラー、恋愛、コメディ、犯罪映画など、さまざまなジャンルの映画をわたり歩く。そして2006年の『ドッグ・バイト・ドッグ』から暗黒暴力美学の萌芽(ほうが)が見られるようになったのでは、という司会の映画評論家・くれい響氏の指摘に、チェン監督は深くうなずく。
「この作品は私にとってとても重要な作品。この作品を通して、この世の中を見る方法、あるいは自分が見たものをどういう風に表現するのか、その方向性を見つけたわけなんです。そこで何を見たのかと言うと、非常にダークで腐敗した世界、絶望、希望がない世界。そういったものを自分の美学を通して表現するという方法を見つけたわけです」。
そして翌年には日本のコミックを原作とする『軍鶏 Shamo』を発表する。「実はこれはもっとも皆さんに話したかった映画でした。この映画は日本と非常に密接な関連があるんです。自分の大好きな日本の漫画を映画化したんですが、はっきり言ってこれは失敗作でした。あまりにも好きすぎて、盛り込みすぎてしまった。だから翻案するときに重荷になってしまった……。でもこの失敗からいろんなことを学んで、後の作品にどんどん反映させていくことができたから感謝しているんです。そして(原作者で同作の脚本を務めた)橋本以蔵先生にも本当に感謝しています。先生とはいろんな交流ができて、いろいろと話をすることができましたから」と振り返る。
その後、08年には香港映画界の巨匠ジョニー・トーらが率いる映画制作会社「ミルキーウェイ・イメージ(銀河映像)」に参加し、ルイス・クー主演の『アクシデント』や、ショーン・ユー主演の『モーターウェイ』などを発表することになる。「ここでわたしは改めて映画の持つ価値を再認識することができました。これはジョニー・トー監督のおかげ」と感謝するソイ・チェン監督だが、トー監督との企画開発については「正直、その過程は非常に苦痛でした。これは少し言い過ぎかもしれないですが、とにかく厳しいんです。まだ脚本ができる前の段階、つまりアイデア、あるいはプロットを持って行くんですが「うん、ダメだね」。それを繰り返し繰り返し、二十数回も繰り返される。皆さん、想像できますか? この苦痛を」と冗談めかしながら、思わず苦笑い。結局1年半かけても脚本が完成しないこととなり、トーが「もういいよ、撮り始めよう。撮りながら考えればいいじゃないか」ということもあったという。
また、初めてカーチェイスに挑むこととなった時は、予算が足りなかったため、スピード感よりも、独自のスタイルでカーチェイスを撮影したこともあったが、完成したラッシュ映像を見て「これはダメだ。ひどすぎる」とがくぜんとし、モニターを壊してしまいたい衝動にかられたという。だが、トーが自己資金を投じて撮り直しの予算を捻出し、「また好きなようにいくつかのシーンを撮っていいよ」と告げ、再チャレンジの機会を与えてくれた。当初、トーは7~8日もあれば撮り直しは可能だろうと思っていたというが、ソイ・チェン監督は「16日間ほしい」と要求。トーはあきれながらも、チャンスを与えてくれた。「プロデューサーとしての彼の姿勢は本当に素晴らしいんです」。
中国本土の大型映画産業に参入し、超大作『西遊記』シリーズを手がけることになった際には、大きな葛藤も抱いたという。「巨大な規模の作品づくりという制作過程を学ぶことはできたが、クリエイターとしての成長はあまり感じられなかった。自分はこういったジャンルの映画を撮り続けるのかと……むしろ、自分自身を見失ってしまった時期だったかもしれない」。そこで「もう一度、自分自身の好きなテーマ、個人的な作品でも構わないから、もう一度自分自身を見つけ出そうと。それが『リンボ』という作品だった」。モノクロのノワール・スリラーを撮るにあたり、「繰り返し自分に問いかけるわけです。お前は本当に映画が好きなのか? 映画作りは好きか? どうして映画を撮りたいんだ? と。『リンボ』という作品があったからこそ、今の自分がいると思う」。
そしてその先に生まれたのが『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』だった。この作品について語り始めたチェン監督は「皆さん、『トワイライト・ウォリアーズ』の話をするとニコッと笑ってくれるんですけど、どうしてですか?」と笑いながらも、「ここで言えることは、続編は間違いなく撮ります。実は来年3月にクランクインする予定が決まってます。ただ上映がいつになるのかは分かりません。なぜなら、ポストプロダクションとか、いろいろな作業があるからです。だから取りあえずは続編を撮って、その後に前日譚(たん)も撮ります。脚本はもうすでにあって、この2つの脚本は今、皆さんがご覧になった映画と非常に密接な関連性を持っている。とにかくできるだけ早く続編を撮り終えて、皆さんにお見せしたいと思っております」。
そして最後のコメントを求められたソイ・チェン監督は「自分の人生を振り返ると、何度も自分を見失ったり、落ち込んだりした時期があって。結局人生は山あり谷ありで、それは創作活動も全く同じことなんです。時々迷い、自分を見失ってしまうが、その結果として生まれたものが、意外と良いものだったりする。そういったことは、人生において繰り返し起きることだと思う。皆さんもきっとそうでしょう。実はこの『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』も、わたしが自分自身を見失い、迷って、迷って、その末にできた結果なんです。そして、それが意外にも皆さんに喜んでいただけている。だから自分は本当にラッキーだと思っています」としみじみと語った。
第38回東京国際映画祭は10月27日~11月5日、日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開催。