2025.11.04 [イベントレポート]
「ウッディ・アレンやエリック・ロメールの作品の印象に近づけたかった」10/28(火)Q&A『金髪』

金髪

© 2025 TIFF

 
10/28(火)コンペティション部門『金髪』上映後に、坂下雄一郎監督をお迎えし、Q&Aが行われました。
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坂下雄一郎監督(以下、監督):監督の坂下雄一郎です。今日は観ていただいて本当にありがとうございました。
 
司会:市山プログラミング・ディレクター(以下、市山PD):すごく面白かったのですが、小説やコミックなどの原作がないオリジナル脚本ということで、どのようなところからストーリーを思いつかれたのかお聞かせいただけますでしょうか。
 
監督:この企画が始まったのが4、5年前なのですが、その頃に、いわゆるブラック校則と呼ばれるようなニュースが取り上げられて、「校則」というのが題材としてすごく面白そうだなと思ったのと、それ以前にイギリスだったと思うのですが、学校の制服の決まりに抗議するために男子がスカートを履いて抗議したというネットニュースを見たことを思い出しました。「校則」を題材にする時に、じゃあどういう物語を作ったらいいんだろうと思って、そのネットニュースを連想して、じゃあ、日本だったら金髪の子たちが抗議するためにやって来るという物語の始まりを考えた感じです。
 
市山PD:すごく面白くて、かなり練られた脚本だと思います。どれぐらい時間をかけて作られたのでしょうか。
 
監督:最初のアイデアが出てきたのが2021年で、撮影が2024年なので、3年ぐらいです。
 
市山PD:実際に起きた事件のことを話されていましたが、そういうものを調べたりされたのでしょうか。
 
監督:この物語に出てくる登場人物の先生や教育委員会の方など、実際に働かれてる方に取材を重ねました。それこそ最初は、どういう生活をされてるのか分からないので、何時に出勤して何時まで働いてますかとか、電車通勤ですかとか、そういうところから始まって。もし、こういう映画の中で起きているような、生徒たちがこういう形で抗議してきたら、どういう対応を取りますかなどを聞いて取り入れたりしていきました。
 
――Q:この映画の中で、「30歳」を基準として年齢に関するキーワードが出てきました。ここに込められた監督の思いや意図をお聞かせください。
 
監督:脚本の開発の過程で、一人の登場人物、主人公のキャラクターの掘り下げを脚本開発の過程でしていくことになりまして。どういうキャラクターにしようかと思った時に、そのあたりでこの映画っていうのは年齢に関する映画だと何となく意識し始めました。物語上、若者たちが抗議してくるってことは、やっぱり大人側からの意見になる。でも、その大人になる前の30歳くらい、やっぱり「30」っていうのが感覚的なものなんですが、節目というか、なんとなくパブリック的なイメージでもあるかと思うんですけど…。キャラクターの抱えている葛藤として、おじさんになるのを怖がっているキャラクターにしようというところから始まって。ていうのは、個人的な考えですが、このキャラクターを深める企画開発で、SNSとかニュースで僕より上の世代の男性の発言で炎上してることが多いということが結構あって。それを見ていて、こういうこと言っちゃいけないんだな、気をつけないといけないなと思ってたんです。けどそれって、当事者は炎上しようと思って言っているわけではなく、無意識に言ってると思ったんですね。自分ももしかしたらそうなってしまう恐れがあるなと。じゃあ、その怖れみたいなものをキャラクターに取り込んでみたら面白くなるのかなと。分かりやすいキーワードとして「30歳」にしたという感じです。
 
――Q:監督が映画を作る上で大切にしていることを教えてください。
 
監督:いろんなジャンルの映画が好きなのでいろいろ観てはいるんですが…。自分が(制作として)関わる時に必ず心がけているのは、エンタメ映画ということ、娯楽映画として作りたいということを前提として思っています。それは映画の広がり方みたいなものを考える時になるべくいろんな人に観てもらいたいと思った時に、そういう商業的なものとかエンタメ映画を作る方がいろんな方に届いていくんではないかなというのがあります 。
 
――Q:中学生などの若いキャストを起用していますが、シナリオを渡した時に、そのまま受け入れてくれてたのか、今の学校生活は違うと指摘されたことはありますか。また、大勢のキャストを動かすのに苦労したような裏話があれば教えてください。
 
監督:脚本は意図的に、セリフが等身大のものを目指すというよりは、大人が考えて子供にこういうことを喋らせたら面白いだろうということを書いているので、あまりそこに関しては当事者というか、演じてる役者の方々からは特には出てなかったんです 。もしかしたら内心思っていたかもしれなかったですが、僕は役者さんとそこまでコミュニケーションを取る方ではないので、向こうから言ってこない限りこちらから聞くこともなくという感じでした。
もう一つの(質問の)ですが、役者さんたちの束ね方は、特に僕は何もせず演出部の方々に頑張っていただきました。リアル中学生たちがいるので、教室のシーンとか待ち時間はものすごい騒ぎで、僕は10代の子たちのすごく騒がしいところがちょっと苦手なので、そういう瞬間になると、すっと教室を出て、モニターを外に出してもらって中には入らないようにしていました。
 
――Q:最初からこの結末を意識して撮られていたのでしょうか。
 
監督:最初からこのぐらいのニュアンス、印象にするとは決めていて、具体的な物語は企画開発でいろいろ細かく変えつつ、今の形になったという流れになりました。
 
――Q:社会的で難しいテーマですが、コメディというかたちで緻密に製作されています。制作過程の苦労話をお聞かせください。
 
監督:社会的な問題の描き方については、最初の物語の導入が決まったら、自ずとキャラクターなり、その後の展開を考えて行くと、こう描こうというよりは、生じてくる問題というか、その都度、じゃあ校則って変えた方がいいのか、悪いのかを考えた時に…そういった問題が出てきたりする時に、その都度、考えていったもので、元から社会に対して考えていたものを表現していこうというよりは、物語を考えていくうちに、これはどういうことなんだろうと思った時に、その都度考えていったという流れです。具体的にどうするではなく、人物がこう動くことによって、社会的な問題が出てくるようにしたいと思っていたので、個人的な強い意思から導いたものではないという感じです。
 
――Q:市川先生役の岩田剛典さん、板緑役の白鳥玉季さんをキャスティングされた理由をお聞かせください。
 
監督:(市川役の)岩田さんのキャスティングに関しては、キャスティング会議で提案されてから改めて出演されている映像を見て、笑顔の爽やかな好青年のような印象の奥に、なにかあまり腹の中が読めないというか、何を考えているのか難しそうな、よくわからない理解できない部分がありそうな気がして。もしかしたら、この方だったら合うかもしれないと思ってお願いしましょうということになりました。
板緑役の白鳥さんに関してはオーディションです。この役のオーディションで何人か集まってもらって、一番、とにかく演技が一番上手い子がいいと思ったので、その中で一番上手かった子です。
 
――Q:長回しのシーンが多くありましたが、どのように演出されたのでしょう。
 
監督:この作品では基本的に会話劇をどう撮るかって考えた時に、それぞれの人物のアップのカットバックで撮るよりは、ウッディ・アレンとかエリック・ロメール(の作品)のような、男女2人が喋っている画が多い映画の印象に近づけたかったので、なるべくツーショットでの撮り方を多くしようと心がけました。なるべく編集でテンポを出すよりは、その場で、役者さんの演技の違いでテンポを作ってもらうというやり方を意図しています。基本的にそういう長回しのカットは、何回も撮らせてもらっている感じですね。なるべく多くのカットを撮って、後から見て選んだというシーンが多いです。
 
市山PD:ありがとうございました。『金髪』は11月21日 に劇場公開されますので、ぜひとも皆さん、お知り合いの方にお勧めいただければと思います。

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