2025.11.03 [インタビュー]
「観客自身が登場人物の繋がりをゆっくり発見する体験をしてほしい」公式インタビュー『最も美しい葬儀の歌』

東京国際映画祭公式インタビュー  2025年10月30日
 
アジアの未来
最も美しい葬儀の歌
ズィヤ・デミレル(左・監督/脚本/プロデューサー)、ユスフ・タン・デミレル(右・脚本)
最も美しい葬儀の歌

©2025 TIFF

 
夫を失った女、不釣り合いなカップル、ビデオ作家などが登場し、2万ユーロの詐欺の話から故人の誕生日まで、パートごとに不思議な人生模様が描かれる。それらのバラバラの要素が次第に繋がって、ストーリーが構築されていく。トルコ映画界の新鋭ズィヤ・デミレルが、弟ユスフ・タンとのコラボレーションで作りあげた、ユニークな構成の人間ドラマ。プラハの映画学校で学んだズィヤの才気が随所に漲り、独特の映像世界が構築された意欲作である。
 
 
──様々な人々が最後に繋がっていく展開、どういう経緯からお考えになったんですか?
 
ユスフ・タン・デミレル(以下、ユスフ・タン):最初は、激増するインターネット詐欺の話を聞いたことから、異なる独立した短い話を作って、アンソロジー形式にしようかと思っていました。話を集積して最終的に繋がるようにしたいと思いました。そして、話と話の間で関わりができ、見る人たちに裁量を任せる方法を思いつきました。最初、7つの文章を書き、それぞれの文章に基づいて、ひとつのテーマとして即興の演技を核として作っていきました。
 
──即興の演技をするその段階で俳優さんも決まっていて、キャスティングされていたのですか?
 
ユスフ・タン:脚本にまとめるために即興をしたのは私たちふたりです。その時は、役者さんにお願いしていません。俳優さんはその後で決めました。
最も美しい葬儀の歌
 
ズィヤ・デミレル監督(以下、デミレル監督):最初のバージョンは、心の叫びみたいなものでした、そこから物語をどうリンクさせるか、エピソードを書き入れて、細かいところも考えるようになりました。でも、作品の芯にあるものは、最初の即興でできたものです。その後、いろんなディテールがリンクされていった感じです。撮影が始まったら、14日間しか日数がないので即興はありません。ずっと演技を続けてもらって、長回しをしていきました。カメラ2台で違うアングルから撮っています。
 
──独自のスタイルを編み出したわけですね。
 
デミレル監督:何回もテイクを重ねるたびに、同じにする必要はないと指示しました。人間の感情というのはいきなり変わることがあります。だから役者には自由にやってもらいました。ただ、その時も即興でしていたわけではありません。
最も美しい葬儀の歌
 
──最初の即興という部分は、あくまでもその監督のイメージを膨らませる要素であって、ある程度は監督のなかで物語が決まっていたのですね?
 
デミレル監督:その通りです。
 
──監督の制作方法としては常にこの手法なのですか?
 
デミレル監督:いつもこういうやり方をしているわけではありません。2022年の1本目“Ela with Hilmi and Ali”は普通のやり方で撮った映画でした。今回の作品はそれに対するアンチテーゼ、全然違うやり方でやりたかった。1本目ではユスフ・タンはコンサルタントとして、この2本目では脚本家として参加しました。
 
ユスフ・タン:今回の作品の第一稿は、1本目の作り方に対する反発のようなものです。心から湧き出るものを書いて、1週間でできました。自分たちの衝動的な思いがいっぱい入っていて、それを徐々に変えていったというわけです。
 
──“Ela with Hilmi and Ali”に飽きたりなかったのですか?
 
デミレル監督:その通りです。“Ela with Hilmi and Ali”のような作り方は、不自然な感じがすることがありました。ただ続けるしかなかったので、ちょっと方向性を失っているかなと思うような時もありました。
 
──不自然に感じるというのは、ガチガチに決め込まれて、即興性の要素はなかったということですか?
 
デミレル監督:そうです。ヨーロッパで独立系の映画を作る時は、資金を得るために、物語のあらすじみたいなものを映画祭や、映画制作を援助しようとする団体に見せます。向こうが受け取ったストーリーラインにフィードバックを返し、さらに賞を出すとか、いろいろなラベル、レッテルみたいなものが貼られるわけです。そのやり取りを繰り返すうちに、映画そのものを損なってしまう感じがする時があるのです。今回は、向こうからの意向を抜きにして映画を作りたかったのです。
 
ユスフ・タン:そのようなプロセスを経て作られた映画というのはとても似通ってしまいますからね。
 
──題材には関係がないのですね?
 
デミレル監督:映画を観る人を、人生の中心あるいは部屋の真ん中にポンと置きたかったのです。この人は第1話に出たあの人だとか、関係があるのだろうとか、見る人が繋がりを自分で発見していく。ゆっくりと時間をかけて。そういう体験をしてほしかったのです。
 
──そういう制作を、出資してくれる側に理解してもらうのは難しいですね。
 
デミレル監督:その通りですね。結局この作品にも資金は提供されていません。トルコ政府からも、ヨーロッパの他のところからも。トルコから資金が得られなかったら、ヨーロッパの他の国からも得られないのですよ。つまり、トルコが資金を出してくれたら、他の国も資金を出してくれる可能性が上がるんです。
 
──ということは、監督たちはお金持ちなのですか?
 
デミレル監督:いや、金持ちではありませんよ(笑)。プロデューサーには、この作品は、小型のカメラで、撮影隊もごく少人数で撮れると言いました。結婚式のシーンなどがそうですが、ハンディカムで撮っている部分さえあります。私たちは資金があろうがなかろうが、絶対撮るという姿勢でいました。結局、最終段階でスカイフィルムという制作会社が多少資金を出してくれました。でも、撮影したセットはだいたい友達の家ですし、出演している人たちも友人の役者さんが多いのです。自分たちのポケットから資金を出す必要は結局なかったのですが、この映画を何年も考え続けて、私はハゲになってしまいました(笑)。とにかく時間がなかったので、1回撮影が始まったら集中して低予算で撮りました。
最も美しい葬儀の歌
 
──この作品で、ふたりで即興をしながらストーリーを作っていくというやり方が確立されたと思いますが、次もそういう感じになるのでしょうか?
 
デミレル監督:この映画に関してはすごく良かったと思っています。これからもふたりで共同作業をすることもあるかもしれません。でも、これはひとつのやり方です。マイク・リー監督は役者に即興の演技をさせるといいますが、私もそれは一度やってみたいなと思っています。今回ふたりでやったやり方はとても早く運び、いろんな感情が引き出されました。コントロールされていないのが良いと思いました。
 
ユスフ・タン:これから先も、そんな大きな予算がもらえると思えないので(笑)。映画作りにはこのやり方は好都合だと思います。
 
デミレル監督:弟はとても優れた短編作品を書きます。それをもとに映画を作ることも考えられますね。
 

インタビュー/構成:稲田隆紀(日本映画ペンクラブ)
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