2025.11.03 [イベントレポート]
「日本に戻ってくることができて、とても嬉しいです」11/1(土)Q&A『マリア・ヴィトリア』

マリア・ヴィトリア

©2025 TIFF

11/1(土)コンペティション部門『マリア・ヴィトリア』上映後、マリオ・パトロシニオさん(右:監督/脚本)、マリアナ・カルドーゾさん(右から2番目:俳優)、ミゲル・ボルジェスさん(左から2番目:俳優)、ミゲル・ヌネスさん(左:俳優) をお迎えし、Q&Aが行われました。
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マリオ・パトロシニオ監督(以下、監督):この度はお招きいただきまして、本当にありがとうございます。東京国際映画祭で(ワールド)プレミアを迎えられたこと、大変光栄に思っています。
実は、8歳から9歳まで日本に住んでいた経験があって、日本の学校にも通っていたんですね。それ以来、日本の地を再び踏むことがなかったので、やっと帰ってこられたという感じで、とても嬉しい思いです。
 
マリアナ・カルドーゾさん(以下、マリアナさん):皆さん、こんにちは。実は今回、(私も皆さんと一緒に初めて映画を拝見しました。監督が全然観せてくれなくて、キャストも一切映画を観ていなかったんです。何と申し上げたらいいかまだ考えはまとまっていないのですが、本当に、ここにお招きいただき大変嬉しく思っています。
 
ミゲル・ボルジェスさん(以下、ボルジェスさん):お招きいただきまして、ご一緒させていただいてありがとうございます。
 
ミゲル・ヌネスさん(以下、ヌネスさん):皆さん、こんにちは。お招きいただきましてありがとうございます。僕もこの作品をようやく、初めて拝見しましたので、非常に特別な体験となりました。
この映画を撮っている間、若い役者みんなが憧れるお父さん(ナチョ) 役のミゲル・ボルジェスさんと一緒に共演することが、若手の俳優として目指したい、僕もそこまで若手ではなくなりましたが、目指したいところなのです。そして、マリアナさんの活躍もいろいろ見ていて、大変楽しい思いです。
 
司会:安田佑子 アナウンサー(以下、安田アナ):ありがとうございます。お三方はポルトガルを拠点にテレビ、映画、舞台で活躍されています。今日はですね、撮影監督のペドロ・J・マルケス さんも、客席にいらっしゃっているということなんですね。(会場拍手)
舞台上の皆さんに聞いていきたいと思いますが、まずは監督。この映画のタイトル『マリア・ヴィトリア』、とても大切な方のお名前のようですね。このお話が聞きたいです。
 
監督:実は、映画のタイトルは脚本を執筆している時に思いつきました。僕の亡き母にちなんで名付けられたタイトルです。母の名前を冠することによって、私も非常に力が湧きましたし、主人公あるいは母が生前に解決できなかったものを解消する糸口になったのではないかということで、母の名前がこの映画の大きなインスピレーションになっています。そして、母の名前は、この映画に何かスピリチュアルな魔法のような力をもたらしているのではと思っており、家族の絆を再び深めていく一つの手はずになったと思っています。ということで今日は、僕の父と兄弟姉妹も来ているんです。(会場拍手)
 
安田アナ:ありがとうございます。観に来てくださって。
それでは俳優さんたちにも聞いていきたいです。それぞれ難しい役ですが、素晴らしい演技を見せてくださったと思います。みんな、他の方を想いながらやっているつもりだし、頑張っているにもかかわらず空回りしていく。それが「家族」というのが痛いほど伝わってきました。それぞれの役を、どういう風に解釈して演じていたのか教えてください。
 
マリアナさん:家族の物語という非常に普遍的なトピックを扱った作品だと思っています。やはり家族間って素の自分を出すことができて、出したところで自分の元を離れていかないのが家族のはずなんですけれども、そんな中で感情をぶつけ合いながら、コミュニケーションを取っていくものですから、なかなか難しい関係性でもあると思います。そういう、マリア・ヴィトリアを囲む状況に共感しました。そして、父と兄を演じてくれた二人のミゲルさんのことが私は大好きなんですが、本当にお二人とも自分の素をさらけ出した状態で現場に来て、演技相手になってくれたので、とてもやりやすかったです。
 
ボルジェスさん:当然、キャスト3人だけで映画が完成したわけではなく、素晴らしい監督マリオさんがいなければ、この作品を作ることはできませんでした。監督ご自身も今お話しされていたように、良い母と別れを告げることができてよかったのではないかと思っておりますし、とても私的かつ、繊細な作品を作ってくれたなと思っております。監督は、「素晴らしい俳優であり、素晴らしい監督」です。そういう優れている方なので、僕たちとしては、非常に演技しやすかったです。俳優は、セリフを間違えることなく、タイミング通りにちゃんと言えればいいのですが、それを全て取りまとめて演出してくれているのが監督なので、本当に素晴らしい方だと思っております。
 
安田アナ:いいチームだったんですね。ヌネスさん、どうでしょう。
 
ヌネスさん:オーディションを受けさせていただきましたが、オーディションの段階からキャラクターを深掘りすることができました。特に、主演のマリアナさんとは(会って)すぐに、「あ、これはうまくいくな」というのが直感的にわかりました。お互いの言葉に耳を傾けることができる、そういう関係性を築くことができたので。先ほど、父親役のミゲル・ボルジェスさんの話をさせていただきましたが、何が素晴らしいのかというと、「こう書かれているシーンだから、この演技はこの枠の中で済ませよう」っていう気持ちは一切なく、そこには書かれていない限界を「もう少しできるんじゃないか」ってどんどん探索する方なんです。そこがすごく素晴らしかったのと、監督のマリオさんは、ちゃんとリハーサルをしてくれるんです。ポルトガル映画界ではすごく珍しいことです。今回、入念にリハーサルを重ねることによって、いよいよカメラが回るっていう瞬間に向けて準備を重ねることができるので、我々役者としてはすごくありがたいことでした。そういう、リハーサルの段階からいろんなことを自由に探索してくれる監督なんですね。特に、舞台をやっている役者だと、ありがたく思います。いわゆる、舞台に向けて準備するかのように(役作りを)進められたのがよかったです。
 
──Q:女性を主人公にした理由をお聞かせください。
 
監督:私にとって、女性が強いインスピレーションになっているからです。小さい頃から自分の母、自分の祖母たちを観察し、彼女たちに教えられたことを守ってきました。3人とも今は亡き人になってしまいましたが、何よりも「最初の愛」を感じるのは女性からなんですよね。今は死別してしまいましたが、感じて受け取った愛情っていうのは一生続くものです。彼女たちは僕にとって、未だに大きな存在です。
この社会は男性が牛耳っています。色んなチャレンジをやりくりして、それでも愛を失わず、それでも僕たちに色んなことを教えてくれたり、学ばせてくれたりするのが女性たちだと思います。もし世の中が男性だけだったら、戦争ばかりすることになると思いますが、女性たちに対して僕は、そういう眼差しなのです。
 
──Q:日本の印象をお聞かせください。
 
監督:日本に戻ってくることができて、とても嬉しいですね。例えば、西欧諸国あるいはアメリカへ行くと、自分の中で大事にしている価値観がもはやない社会になっていることがある。対して日本では、そういう大事な価値観が社会の根底にまだ守られているっていうことが見受けられ、「これって可能なんだ」としみじみと感じます。非常に秩序立った社会でありますし、例えば神社仏閣を見ていると、皆さんが抱いている、敬意の念を感じ取ることができます。そんな日本が好きです。
冒頭でも言いましたように、8歳、9歳の頃、日本の学校で学びました。それが僕の中の一つの原体験になっていて、むしろポルトガルへ帰国した時に、なかなかポルトガルの生活や社会に適用できなくて苦労したぐらいでした。なので、日本は僕にとって故郷です。今、このようにして世界中を旅していますが、自分の家と思っているような国です。
 
安田アナ:お時間が来てしまったので、俳優さんたちに一言ずついただいてもよろしいでしょうか。
 
ヌネスさん:私は常に日本に来ることに興味がありました。やっと来られました。アマリア・ロドリゲスというミュージシャンがいるんですが、彼女はしょっちゅう東京でライブをやっていました。日本の皆さんがポルトガル語で歌うんです。どうしたら歌わせることができるんだろうって、僕は不思議でたまらなくて、そんな日本に昔から興味があったんですが、やっと来ることができて嬉しいです。
 
ボルジェスさん:僕は昨日(東京に)着いたばかりなのですが、お招きいただきましてありがとうございます。(日本語で)ありがとう。
 
マリアナさん:私は来日して1週間が経ちますが、人生で最高の一週間でした。京都から東京に降り立ったばかりですが、本当に美しくて、何て日本の社会は秩序立っていて素晴らしいんだろうと思っております。(日本語で)ありがとうございます。

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