11/1(土)アジアの未来部門『明日のミンジェ』上映後、パク・ヨンジェさん(中:監督/脚本)、イ・レさん(右:俳優)、クム・ヘナさん(左:俳優)をお迎えし、Q&Aが行われました。
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司会:石坂健治シニア・プログラマー(以下、石坂SP):『明日のミンジェ』2回目のQ&Aになりまして、監督とイ・レさんは2回目、クムさんは初めてということになります。改めてご挨拶いただいて始めたいと思います。監督からお願いします。
パク・ヨンジェ監督(以下、監督):皆さん、こんにちは。『明日のミンジェ』で脚本と演出を務めましたパク・ヨンジェと申します。お会いできて嬉しいです。
イ・レさん(以下、イさん):皆さん、こんにちは。『明日のミンジェ』でミンジェ役を務めました俳優のイ・レと申します。お目にかかれて嬉しいです。
クム・ヘナさん(以下、クムさん):皆さん、こんにちは。『明日のミンジェ』でジス 役を務めました俳優のクム・ヘナと申します。よろしくお願いいたします。
石坂SP:ありがとうございます。1回目(のQ&Aの時)に色々お話が出ました。皆さんからのご質問の重複を避けるために1つだけお伝えしておくと、イさんの走る姿が大変美しいということで、陸上の心得があるのかという質問がありましたが、全くないそうで、この映画のためにトレーナーの方と一緒に準備をしたというお話が出ておりました。
クムさんは今日初めて(のQ&A)ですので、私から簡単なご質問をして進めたいと思います。コーチの役ですけれども、なかなか複雑な役で100%良い人でもないし、100%悪い人でもないという、なかなか複雑だと思いますが、どんなところに力を入れて役作りをされたか教えてください。
クムさん:私はこの『明日のミンジェ』という映画が、個人の良心に関するストーリーだと考えていました。私が演じたジスコーチは、この個人の良心に関して分かってはいるんだけれども、それを守ることができない環境に置かれ、葛藤する人物だと理解しました。ミンジェは似通った状況に置かれているということで、ミンジェを見守りながらも、彼女がそこから打ち破って前に進んでいく状況を見せてくれています。それに対して、複雑な心境で見守っているジスコーチについて、観客の皆さんも、彼女の気持ちの揺れ動きというのを一緒に共感していただけるんじゃないかなと思って演じていました。でも、今日改めて映画を観ると「ああ、ちょっとやっぱり怖いかな」とも思えたんですが、演技をしている時は、やはり誰にでもある個人の良心という部分について、守りたいと思ってもなかなか守れない時もある。守れなかった時には罪の意識を抱いてしまう人間について、観客の皆さんにも共感していただけるのではないかと思いながら演じていました。
──Q:映画が終わった後の登場人物はそれぞれどんな人生を歩むのでしょうか。
クムさん:そうですね、私の場合は、監督からの電話を受けてまたそこに向かいますよね。ミンジェに希望は見出すものの、ああ、もう難しいなと思っているのではないかなと思います。ミンジェのことを応援しながらも、自分自身はそこのしがらみから抜け出せない、そんな状況になっているのではないかと思います。もし、ミンジェのような学生が自分の元に来た時には、少し違う接し方ができるかもしれないというところに希望を持てるかなと思っています。
イさん:タイトルは『明日のミンジェ』となっていますが、タイトルのように、昨日と今日のミンジェが明日へ向かって進んでいく物語だと私は捉えていました。この映画の中では、ミンジェ自身が自己を探していくシーンが多く描かれていたと思いますが、映画が終わった後、ミンジェは自分自身を守る術を身につけたともいえるので、その先も堂々と胸を張った選択をしながら生きていくのではないかという気がします。
石坂SP:全体として登場人物の未来について、監督お願いします。
監督:映画を観ている間、映画を観終わった後は、そのキャラクターの人生は作家のものではなく、観客の皆さんの頭の中、想像の中にあると私は考えています。これを書いた作家・監督としてではなく、これを観た観客として私がどのように彼女たちのその後を受け止めたのかについてお話をしたいです。
まずは、クム・ヘナさんには大変申し訳ないのですが、ジスという人物は自分自身が作り上げた心の中にある牢獄から抜け出せずに、ずっとその先も過ごしていくだろうと思います。そして、陸上から遠ざかっていくのではないかと思います。
一方で、ミンジェは実業高校を卒業後、国家代表となり、大会にも出場しますが、最上位とまではいかなくても結果に囚われることなく、自分が選択した人生をずっと歩んでいくのではないかと思います。そして、その先は指導者の道に進むのではないかと思いますし、指導者になった時に、過去の出来事やジスコーチのことを少し思い出しながら違う道を選択して、堂々と自分自身の道を歩んでいくのではないかと思いました。
クムさん:悲しいですね。(会場笑い)
石坂SP:ありがとうございました。パート2が作れそうですね。
──Q:ありがとうございました。ミンジェとコーチがトッポギ食べながら靴をもらうシーンがとても面白かったのですが、アドリブだったのか、脚本通りだったのか気になるので教えていただけると嬉しいです。
監督:ほぼ100%アドリブでした。(会場笑い)
もちろん小道具ですとか、場所も決まっていましたし、基本的な骨格というのはあったのですが、俳優の皆さんに最大限自由に演じてもらえるよう、私はその場の基本的なところだけを決めて、その中で俳優さんに自由に演じていただきました。
──Q:ユノは主人公と同じような貧しい境遇だったかと思いますが、急に金回りが良くなります。彼にはどんな裏設定があるのでしょうか。
監督:ユノは経済的に潤っていません。身につけるものに対してはかなり気を遣うキャラクターだったと思います。経済的に豊かでないからといって、着ているものを全く気にしないということではないと思うので、そういうキャラクターにしたいと思いました。後半、彼は銀行から融資を受けてスクールを設立して、表向きはCEOですが、銀行からお金を借りているので借金を多く抱えているという立場です。スクールの院長にはなったので、現金は少し回るようになってはいるものの、少し境遇がよくなったからといって資金提供をすることはありません。プライドも自己肯定感も高いミンジェが受け取らないということは分かっているので、違法ではありますが、あのような提案をすることでミンジェを少しサポートしようと考えたのではないかなと想像しながら書いていました。
石坂SP:このあいだ(一回目のQ&A)のお話ですね。替え玉受験はそんなに頻繁にありませんが、かなり前にそういうニュースを見たというようなお話でしたね。
監督:はい、そうです。
──Q:キャスティングの経緯をお聞かせください。
監督:まず、ミンジェ役のイさんは、これまでにたくさんの出演作があります。韓国で演技力に定評のある俳優さんで、子役時代からずっと活躍していらっしゃるので、イさんの出演作をたくさん見てきました。今回、ミンジェにとてもよく似合うと思って、非常に困難な道のりではありましたけれども、彼女にたどり着いて、シナリオを渡してキャスティングしました。
また、クムさんは、私と同じ映画学校出身で、一緒に勉強していた仲間の同期たちが、クムさんで作品を撮っていたので、私の友人たちが撮った作品でクムさんの演技を見てきていました。クムさんの演技のスタイルやイメージが本当に素晴らしいなという印象を持っていたので、今回、ジスコーチによく似合うだろう、本当にぴったりだなと思って、私がお電話をしてシナリオを渡してキャスティングをしました。
石坂SP:最初に脚本を読まれた時、あるいは監督とお話しされたときの印象をお聞かせください。
クムさん:私は今日、改めて映画を観て、これは本当に悪いなぁと思ったのですが、シナリオを受け取って読んだ時も演技中も、ジスは登場人物の中で最も魅力的だと思いました。これまでインディペンデント映画に多く出演してきましたが、ジャンル的な映画やセリフの長い映画にはあまり出演したことがなかったんですね。初めてシナリオを読んだ時は、「うわーセリフが多いな」と思いました。でも、セリフの多い役柄や、私自身が役として映画の中で少しリードする役柄を演じるタイミングにきているんじゃないかなと思っていたので、このシナリオがとても魅力的に思いました。私自身も、個人の良心を強迫観念のように守ろうと努めていますが、なかなかできなかった時に自分を責めてしまう面もあるので、私自身もジスという役をうまく表現できるんではないかと思ったんです。
イさん:私も台本を初めて読んだ時、ミンジェの内面的な強さを感じました。まるで、女戦士のようだなとも思えたんです。彼女は不遇な環境に置かれていて、助けてくれる人が周りにほとんど居らず、一人で頑張っているのですが、一日一日を孤軍奮闘しながら頑張っている姿を見ながら学ぶところがたくさんあるなと思いましたし、そんなミンジェの姿から私自身もエールを送られているような感じがして、とても面白いなと思ったんです。そんな姿の中に、ミンジェはまだ若いので、弱さや拙さがあります。まさに、人間の中にある弱さや脆弱さ、拙さとつながって、人間の弱さ、脆さというのが映画全般にしっかりと描かれていると思えたので、このシナリオがとても魅力的に感じられました。