2025.11.03 [イベントレポート]
「映画が一つの国だとしたら、その国にはたくさんの浜辺があると思っています。」11/1(土)Q&A『ノアの娘』

ノアの娘

©2025 TIFF

11/1(土)アジアの未来部門『ノアの娘』上映後、アミルレザ・ジャラライアンさん(左:監督/脚本/プロデューサー)、カティ・サレキさん(右:俳優) をお迎えし、Q&Aが行われました。
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アミルレザ・ジャラライアン監督(以下、監督):皆さん、こんにちは。今日、初めて自分の映画を皆さんと一緒に観ることができて、とても嬉しいです。ありがとうございます。
 
カティ・サレキさん(以下、カティさん): 皆さん。こんにちは。この映画祭に参加できてとても嬉しいです。私も、今日初めて皆さんと一緒に映画を大スクリーンで観させていただきました。
 
司会:石坂健治シニア・プログラマー(以下、石坂SP):最初に私から小さな質問を一つ、監督にしたいと思います。
タイトルの「ノア」という人は出てこないわけですけれども、この『ノアの娘』というタイトルについて教えてください。
 
監督:私たちが今までに読んだ歴史的、宗教的な本の中で、「ノア」について説明されています。ノアには3人の男の子がいました。女の子はいなかったんです。いつも、「もしノアに女の子がいたらどういう人だっただろう」「もしその女の子が預言者になったらどういう預言者になっていたんだろう」とずっと考えていました。自分なりには、もしノアに女の子がいたら、とても静かで、みんなの話をよく聞いて、他の預言者たちみたいに奇跡を起こすのではなく、穏やかな人だろうなとずっと思っていたので、彼女を「ノア」の娘にしたんです。
 
──Q: 座った状態での長回しのシーンがいくつかあり、印象的でした。どのような意図があったのでしょう。
 
監督:いろんなシーンが長回しだったのですが、映画のスタイルを決める時は、自分と観客の間に何が起きるべきなのかを考えて決めるんですね。この映画の中では何にも起こらないんですよ。ひとつの空間の中で、観る人は泳いでいけばいいんだと思ったんです。疲れてしまうかもしれないんですけれど、この映画は何も起こらないと思ったら一つ一つのディテールにとても注目して観てくれるかなと思うんです。もちろん、役者さんにとってはとても難しいと思いますけれども。
一つ、すごく長いシーンがあって。焚き火の火がどんどん消えていくシーンです。そこはわざとすごく(長く)回しました。灰になるまでずっと回したんです。それも、自分の観客とのスタイルを考えたうえで作ったんです。
 
──Q:長回しのシーンではどのようなことを意識して演じていらっしゃいましたか。
 
カティさん:私は、状況の中でどうやって演じればいいかと考えたんです。まず、頂いている脚本には誠実に監督の考えをそのまま演じるのかなとは思っていたんです。監督のアドバイスは、「あなたは普通に生活すればいいんだ」だったんですね。普通に焚き火を作ったりご飯作ったりしていればいいんだと言われてたので、そのように演じました。
 
──Q:『ノアの娘』は、映画ではなく舞台にした方がよかったのではないですか。
 
監督:映画が一つの国だとしたら、その国にはたくさんの浜辺があると思っています。小津監督 、アッバス・キアロスタミ 監督のように、「スローシネマ(カット数が少なく、長回しが多いことが特徴)」 と呼ばれる映画があります。彼らは、一つ一つ起きるイベントを全部消したんですね。全部のイベントを消したことで、あなた達(観客)は何かが起きるのを待たない代わりに、一瞬一瞬のすべての時間に発見をすることができると思います。
この映画の中で、私はリズムとハーモニーを生み出し、オーケストラの指揮者のようにリズムを終わりまで持ち続けようと思って作りました。こういった映画を好まない人はいると思います。でも、これは決してステージ上でやるべきではなかったと思います。なぜなら、この映画全体は人間対自然の話なので、自然の中でこれを撮らないといけないと思いました。
 
石坂SP:お母さんの存在が議論になりまして。「本当のお母さんが来たんだ」っていう意見と、「霊的な、亡くなっているお母さんが出てきてるんだ」っていう意見がありました。通訳さんとも意見が違っているのですが、皆さんどうでしょうか。ちょっと挙手をしていただければ。生きてるお母さんがそこまでやってきたと思った人、どのぐらいいますか。
 
(観客挙手)
 
石坂SP:お母さんの存在が霊的なものだと思った方は?
 
(観客挙手)
 
石坂SP:はい、では、監督教えてください。
 
(会場笑い)
 
監督:両方とも私は手を上げていません。二つとも手を上げてませんでした。
 
石坂SP:というお答えです。それぞれで考えなさいということですね。

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