11/1(土)アジアの未来部門『一つの夜と三つの夏』上映後に、カンドゥルンさん(中央:監督/脚本)、ツェリン・ヤンキさん(左:俳優)、ツェリン・トゥンドゥプさん(右:俳優) をお迎えし、Q&Aが行われました。
→作品詳細
カンドゥルン監督(以下、監督):皆さん、こんばんは。私はこの映画の監督のカンドゥルンでございます。皆さんとお会いできて大変嬉しく思います。実は現場には、この映画のクルーのメンバーもいっぱい来ております。プロデューサーのリャン・イン さん、そしてもう一人のプロデューサーのジャン・チェンチェン さん、カメラマンなど…。皆さんがここにいらっしゃいます。(会場拍手)
ツェリン・ヤンキさん(以下、ヤンキさん):皆さんこんばんは。私の名前はツェリン・ヤンキと申します。私はこの映画のなかでサムギ という役を演じました。ありがとうございます。
ツェリン・トゥンドゥプさん(以下、トゥンドゥプさん):(日本語で)皆さんこんにちは。ツェリン・トゥンドゥプです。
司会:石坂健治シニア・プログラマー(以下、石坂SP):お三方にはチベットからお越しいただきました。大変若いチームです。
簡単な質問なんですけれども、中国のタイトルは日本語と同じ、そのまま訳した『一つの夜と三つの夏』ですね。英語の方が Linka Linka なのですが、監督はどのような思いでお付けになったのでしょうか。
監督:私と私の周りのこの世代の若者は、中学校の時にラサ(中国のチベット自治区の首府)を離れて中国の内陸に勉強をしに行きます。夏休みになると、ラサの故郷に帰って過ごしますが、その時、必ず「リンカ」という場所に行って暮らします。これも一つのやり方なんです。映画の中でもそうですが、よく車に乗ってラサに向かっていく途中にそういう所を見かけて。山の向こうとか、それが頭の中にずっと残っているんです。しかも、この映画の中にいくつか重要な場面がありまして、この舞台も全部、このリンカのところにあるんです。そういう意味で英語タイトルは Linka Linka にしました。
──Q:監督は大学卒業後に映画監督になられたと伺いました。ご家族に反対されなかったのでしょうか。今回、東京国際映画祭で上映されましたが、ご家族の皆さんは監督のご活躍をどう思われているのでしょう。
監督:私の家族は、私が映画を撮ることについて全く反対していませんし、むしろ、非常にサポートしてくれました。父親もそうです。この映画を制作するにあたり、予算がまったくなく、映画に登場する父親は、私の実の父親です。この二人も私の親友なんです。出演している人たちは、みんな私の親戚や親友の皆さんです。みんなこの映画を助けにきてくれました。映画の中で、どうして父親は娘が映画監督になることに反対するのかといいますと、チベットの親は一般的に、息子や娘に立派な職業についてほしいと思っています。例えば、銀行員や公務員です。それがラサでは一般的な状況です。
──Q:現地の教育システムについてお伺いしたいです。映画のストーリーと同様に、内地へ進学できるのは、限られた子どもだけなのでしょうか。
監督:ラサでは、私たちが小学校を卒業した時に試験があるのですが、この試験に合格した特に成績が優秀な学生が優先して内地に進学します。1985年以来の統計では、大体の人数でいいますと、全学生数の約2割、3割を占めています。この映画の中では、登場人物がこういう経験をしていたというストーリーとして取り上げていますが、チベットでは一般的に、多くの小学生はチベットにそのまま残って進学していくというケースもよくあります。
──Q:主人公サムギの過去シーンがあります。サムギの過去を回想したものなのか、サムギが映画監督として「自分の過去」を作品にしたものなのか、どちらで解釈するべきなのでしょうか。
石坂SP:映画的な仕掛けだったのか、どうなのかってことですね。
監督:はい、ご質問ありがとうございました。ある意味で、オープン・クエスチョンみたいな話になると思いますが、観客の皆さんそれぞれが好きなように理解してもらえたらと思います。確かに過去を描いているのですが、映画の始まりは「映画の中の映画」みたいな…。サムギ が映画を撮影をしていて、自分の子ども時代(幼少期)、つまり、親友(ラモ) との物語を撮っています。ここで大事なのは、このサムギの幼い頃の記憶、幼なじみ(ラモ)や中学時代とか、そういった物語が中心になっています。私の理解としては、(これが)正しいと思います。ですから、これは彼女の過去なのか、あるいは今のこの人物の過去なのか、解釈は本当に自由でございます。また、映画に「今の我々は、全部過去が作っている」という漢詩の一句が登場します。過去(のシーン)は彼女(自身)の過去でもいいし、映画の登場人物の過去(彼女が撮影した作品)でもいいし、とにかくオープン・クエスチョンという形で、皆さんそれぞれ理解していただいて結構です。
石坂SP:ありがとうございました。俳優さんお二人への質問です。役作りで大切にしたこと、心がけたことなど教えてください。
ヤンキさん:私が今、覚えていることは、出演当時、ちょうど車の運転の練習をしていたのですが、監督からすごくいいと思いますと言われましたことです。なぜかというと、サムギもいろんなことを経験しているからです。特に、父親との関係においては、いろんな問題に直面する場面があり、車の運転の練習も役に立つと思いますよ、と。
実は本日、完成した映画を私も初めて皆さんと一緒に観たのですが、途中、2回も涙を流しました。本当に監督が凄いし、編集をしてくださったスタッフも凄かったと思います。すごくいい映画になっています。私たち俳優3人の年齢も近いですし、同世代の人間として、この映画の中で描かれていることに対して、非常に共感できるのです。実際に、撮影現場で役作りについて特になにか準備するとか、もちろん多少はしましたが、それほど多くはしませんでした。なぜかといいますと、私自身も一応、クリエイターとしてクリエーションをしています。なので、この作品を皆さんにご覧いただき、「今の新しいチベット人の若者の群像劇」というふうに理解していただければ、とても嬉しいです。
トゥンドゥプさん:私の場合、この役柄は本来、私の妹がやる予定でしたが、彼女に用事があり、代わりにキャスティングに行ったら、非常にラッキーなことに私が選ばれました。私も、本日初めて完成した映画を観ましたが、私が演じた役は、劇中の役とまったく同じように、普段の我々の日常生活そのものを描いています。登場人物のサムギとは非常に良い友達ですし、本当に普段の生活や暮らしがそのままに描かれていると思います。チベット語に、あることわざがあります。直訳しますと、「夏は非常に短い」です。夏が終わるとすぐ、冬がやってくるわけですから、夏は一つの非常に贅沢な時間であるといえます。夏にリンカがありますが、リンカが過ぎると冬がやってくるので、みんな一生懸命リンカを楽しみます。先ほど監督も仰っていましたが、当然、チベットの過去が今のチベットを作っています。過去と現在が見事に描かれているので、皆さんが気に入ってくださればとても嬉しいです。この映画の中で、ここが特によく描かれていて、私も大好きな部分です。
石坂SP:ありがとうございました。俳優さんも今日初めて映画をご覧になり、ワールドプレミアということで、スタートでございます。これからこの映画、日本そして世界に向けて、ぜひ皆様応援していただければと思います。