11/1(土)アジアの未来部門『黄色い子』上映後、今井ミカ監督(左)、今井彰人さん(右:俳優) をお迎えし、Q&Aが行われました。
→ 作品詳細
──Q:ろう者の子どもが迷子になった時、なぜ警察に連絡しなかったのでしょうか。
今井ミカ監督(以下、監督):はい、ご質問ありがとうございます。10月28日の(Q&A)時にも同じ質問をいただきました。警察に言わないのはどうしてかというご質問なんですが、警察が嫌いとかそういうわけではなくて、ろう者の心理的な描写をここでしたいと思ってこのような表現になっています。初めの挨拶のところでもお伝えしましたが、ろう者の第一言語は手話です。手話を第一言語として生きていますので、日本語が第二言語になります。ですので、別の国に行った時に、聞こえる人たちに囲まれて、文化も違う、言語も違う国に行った時に、ろう者は大変不安な気持ちになるのです。マイノリティ(ろう者)の立場であるろう者協会が、マジョリティ(聴者)の人たちに対応することになりますが、マジョリティに対する心理的な壁というのがあって、なかなかそこに辿り着けないというようなところを出したかったんです。
付け加えますと、警察の問題だけではなく救急の場合など、緊急事態になるとどうしてもコミュニケーションが取れないことがこれまでの経験から分かっているんですね。その時、大変不安になるというのがろう者の人生の経験としてあります。それは、台湾や日本のろう者だけではなくて、海外のろう者も同じなんですね。通じないことや誤解されてしまうことが非常に怖い。不安に駆られてしまうのです。なので、警察に相談する前に(ろう者協会に相談するなどろう者のコミュニティだけで解決しようとする)、というのがあります。私の両親もろう者ですが、私が「こういうのはどうしたらいいか」と尋ねると、「まあ、警察には相談しなくていいよ」なんていう反応をしたりとかしますので。やはり、ろう者としての見えない心理状態で、マジョリティ(聴者)の警察に相談する前に、何とか自分たちのコミュニティで何とかしようという心理が働くことをこの映画で描きました。
今井彰人さん(以下、今井さん):やはりろう者にとって、コミュニケーションが取れるというのはとても安心するんですね。ある場面でランタンをあげるシーンがあったと思いますが、そこで黄色い子の光希が家族の絵を描きましたよね。五本指がしっかりと描かれていたと思います。ろう者としてのコミュニケーションを意味してると思うんですね。なので、(ろう者にとって)手話のコミュニケーションが、「生きる」ということに大きく関係していると思います。
──Q:行方不明の子どもを自分たちで保護することは、日本だと犯罪になると思います。台湾でも犯罪になると思いますが、ろう者協会の人たちはそのように考えなかったのでしょうか。
監督:確かに、犯罪に近い状況だと思います。誘拐と間違われたらどうするんだというようなことがセリフでも描かれているかと思います。少しでも、ろう者の心理的な不安を見せたい。なんとか情報を集めて、情報があったら助けられるかもというギリギリのラインを攻めています。そういう心理状況でここは描かれていて、お父さんはずっと自力で探しているわけですよね。自分の力で解決しようというわけではありませんが、お父さん自身も警察に頼んだりしていますので。なんでもでもいいから自分で探せるようなヒントが欲しいと思って警察に行きます。
また、(ろう者)コミュニティが非常に狭いんですよね。LGBTのコミュニティとなるとさらに狭くなってきます。日本人のろう者でも、世界中のろう者と繋がっている方がいますし、そういう狭いコミュニティの中での繋がりというのもあります。友達に聞いたらすぐに分かって解決したっていうこともあるので、そういう狭いコミュニティで安心できる面もあるんだということを見せたかったというのもあります。
確かに、警察に依頼しなければならないというのはあるんですが、ろう者としての微妙な心理状態を描きたかった、作りたかったというのがあり、このようになっていいます。
──Q:作品を作ったきっかけついて教えてください。
監督:10年前の2015年に、台湾国際ろう映画祭というものが行われており、私は短編ホラー映画を出品していました。その際に、台湾のろう者に初めて会い、とても手話が似ていることに気がつきました。おじさん役のグーさんもおっしゃっていた通り、昔、日本が(台湾を)統治していた時代に、ろう学校の先生が日本から派遣されていたようなことがあり、その影響もあって日本手話が残っています。そのため、台湾の手話が日本の手話と似ているという話を聞きました。このことは学校では習わなくて、台湾でろう者に会って初めて聞いた話です。この話を聞くだけではちょっと何か物足りないというのがありまして。やはり、映画の中にこういうものを残したいという思いはずっとあったんです。たまたまコロナのパンデミックがあり、その映画祭がなくなってしまったんですね。いつも招待作品として行っていたのですが、その場がなくなってしまった。その場で話されたことは非常に大切なことなので、それを描いたらいいのではないかと思って作ったのが、この映画のきっかけです。
──Q:台湾との関わりについて教えてください。
監督:映画を作るきっかけは、台湾の人たちに会った「縁」です。それで、何か一緒に作ろうということになりました。『黄色い子』は本当にチャレンジをした作品です。(ろう者の)映画監督や映画のディレクターはいますが、台湾の映画監督はほぼいないという状況でした。ろう者の俳優もプロでやっている人たちはいないという状況です。日本と台湾は、アジアの同じ地域に暮らしている非常に近い国でもありますので、ろう映画界をもっと盛り上げていきたいなというのもあり、アジアで何かできるんじゃないかということで、挑戦したいと申し出たところ、協力していただけるということでした。いろいろな場所のロケ地も交渉してくださったおかげで、このチャレンジングな映画を撮ることができたという流れです。この場で映画を上映できることは、これからの発展の第一歩になるのではないかなと思っています。
今井さん:きっかけは、2年前から演技のワークショップを現地でやらせていただいたということもありました。これが、今回の映画の制作に繋がっているということです。
司会:石坂健治シニア・プログラマー:最後、監督に締めていただこうと思います。まさに第一歩といいますか、この映画、1回目の上映はワールド・プレミアで、今日が2回目です。これから日本、そして世界に向けて羽ばたいていく、まさにその第一歩ということですので、その辺も含めて監督から締めの言葉をお願いします。
監督:最後に一言、皆様に申し上げたいのは、改めて感動したことは、台湾と日本のチームが集まって、この撮影の現場でたくさんの発見があったことです。国は違うけれども似ているところもある。やはり、手話というのは「見る」視覚言語です。視覚言語なので、そこからイマジネーションが出てくる。それも加えて話し合いながら作成したおかげで、この映像ができたと思っていますし、この演技ができたと思っています。改めて、その目で生きるろう者、また、芸術作品、映画作品として新しいアジアの日本として、他のところでも同じようなことが起きて世界中にこのような動きが出てくるといいなと思っています。聴者の皆さんにも、是非応援していただきたいです。興味を持ってご覧いただきたいなと思っています。是非とも、これからも応援をよろしくお願いいたします。本当に今日は来ていただきましてありがとうございました。
石坂SP:日本でも台湾でも、公開の計画はこれからだそうで、本当に、出来立てのほやほやです。ぜひ、皆さんの応援が大きな力になりますので、SNS等で広めていただければと思います。