11/2(日)コンペティション部門『雌鶏』上映後、タナシス・カラタノスさん(プロデューサー)をお迎えし、Q&Aが行われました。
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タナシス・カラタノスさん(以下、タナシスさん):みなさん、本日この映画を観にきてくださって本当にどうもありがとうございます。みなさんが観てくださったということも大変光栄に思っておりますし、Q&A にこれだけたくさんの方が残ってくださっているというのも大変良い兆しではないかと思います。
司会:新谷里映(以下、新谷さん):チケットは完売でした。
タナシスさん:嬉しいです。
──Q:主演女優の雌鶏はどのように決定したのでしょうか。
タナシスさん:大変良いご質問をいただきました。(会場笑い)
我々は元々、見た目が素敵な黒いメンドリを探していました。今回は、キャスティングどうこうというよりもトレーニング中心の抜擢でして、見た目の近い8羽の黒いメンドリをトレーニングして、それら8羽が一緒に主役を演じたんです。
実は、ヨーロッパでも著名な動物トレーナーに依頼しましたが、そんな彼でもニワトリのトレーニングをしたのは初めてだったんですね。ただ、(トレーニングに)それほど長い時間はかかりませんでした。撮影の3ヶ月前からトレーニングを始めましたが、最初はトレーナーが住んでいたハンガリーのブダペストでニワトリたちのトレーニングをして、その後、撮影地のギリシア(ギリシャ)まで撮影の10日ぐらい前に移ってもらって新しい環境に慣れてもらいました。
新谷さん:ありがとうございます。私も聞きたかった質問でした。メンドリについてお伺いしたいんですけれども、トレーナーが驚くぐらい珍しかったということですが、そもそもなぜ、たくさん動物がいる中でニワトリだったんですか?
タナシスさん:まず、私が知っている話としては、パールフィ・ジョルジ監督は小さい頃にニワトリを家で飼っていたんですね。それが恐らくニワトリを選んだところにも関わっているんじゃないかと思います。それから、ニワトリってすごく誤解されていると思っていて、日本ではどうか分かりませんが、ヨーロッパでは「ニワトリぐらい頭が悪い」という言い回しがあります。でも、彼らはそんなに頭は悪くないです。この映画でその点も立証しているのではないかと思います。映画に求められているものすごい高い能力を、彼らはトレーニングをこなしてやってくれているので、知性があるということも分かると思います。
あと、なぜニワトリかっていう話を監督と詳しくしたわけではないですが、チャレンジングだからこそやったんではないかという気がします。すでにロバの動物映画もありますし、馬なんかを選べばとても可愛くって目もすごく大きくって悲しげな目をするので、それはスクリーンにすごく映えると思うんですが、一方のニワトリは目もすごく小さくって、決してスクリーン映えしない。そんなチャレンジングなところに惹かれたのかもしれません。
──Q:監督はこの作品にどんなメッセージを込めたのでしょうか。
タナシスさん:私は数日前の上映会場にいたんですけれども、その時もとっても良い印象を受けました。他の国での上映と比べても、日本の方はすごく穏やかに観てくださっていて。笑ってほしいところで笑ってくださったという印象で、とても良かったです。
監督が何を伝えたかったかっていうと、私たちはハリウッド映画やコメディ映画、アドベンチャー映画を作りたかったわけではありません。もしそういうものが希望であれば、アニメーションやCGにしたと思うんですね。どちらかといえば、人の心を動かすようなシンプルなストーリー、我々が今暮らしている社会について考えさせるようなことをしたかったんです。もちろん、我々が暮らしている社会には動物もいますし、映画を観ての通り、同じ環境にいて共生しているように見えながらも、我々の生き方はすごく並行していて繋がっていません。我々も動物のことをそんなに気にしていないですよね。ただ、視点を変えると、動物も我々の問題には無関心です。人間にとっては非常に大きな悲劇が起こりますが、メンドリはそんなことは気にせず、頭の中はあくまでも「オンドリを見つけて、小さなヒヨコを産む」ことでいっぱいなわけですよね。
──Q:製作方法について教えてください。3DアニメーションやVFX(コンピュータ技術を用いて映像に特殊な加工を施す技術)を使用していますか?
タナシスさん:信じられないかもしれませんが、そういったものは一切使っていません。本物の撮影をしました。かつ、2羽のメンドリのスタント用のメンドリまでいたんですね。ジャンプが得意、スタントが得意なスタント用のニワトリ2羽にあるシーンでは飛んでもらいました。ちなみに、一部のシーンはスペシャルエフェクトを多少入れています。どうしてもニワトリたちと動物トレーナーが一緒に映ってしまう画面があったので、ポストプロダクションで消しました。
でも、やはりこれは大きな挑戦でした。前にも言いましたが、撮影が始まる前の段階では、正直かなり不安でした。撮影スケジュールを立てて、確か42日間くらいに設定したと思います。それでも、十分なのかどうか確信が持てませんでした。もしかすると日数が足りないかもしれない、もっと撮影日を確保した方がいいかもしれないと思っていました。けれども、追加の撮影日を設けるだけの予算がありませんでした。それに監督も、この種類の作品を手がけるのは初めてだったので、どうなるか分からなかったんです。それで私は動物トレーナーに、本当にやれると思うか、メンドリたちはちゃんと演じてくれるか?と聞いたところ、彼は「はい」と、とてもシンプルに答えました。
動物が原因で撮影時間がオーバーになったことはありませんでした。ただ、どうしても撮影現場に緊張感があると、メンドリたちもそういう雰囲気を感じ取るので、それが私たちにとっても良い警告になりました。1羽のメンドリで30分ぐらいまでしか撮影ができないため、あまり長く無理をさせることはないようにと肝に命じて撮影をしました。
──Q:パールフィ・ジョルジ監督作品の魅力とは何でしょうか?また『雌鶏』にどんな影響を与えたと考えますか?
タナシスさん:この脚本を読んで、私はすっかり確信を持ちました。彼の映画はいくつか観たことはありましたが、すべてではありません。それでも脚本そのものに強く惹かれたんです。彼が頭の中に思い描いていたコンセプトにも確信を持てました。
というのも、脚本というのは一つのことですが、実際にそれをどう形にするか、どうやって実現するかというのはまた別の話です。それを本当にうまく実行できるのかどうかが重要なんです。彼に初めて会ったとき、すぐに私に信頼感を与えてくれました。もちろん、彼のこれまでの作品についても知ってはいましたが、私が監督と一緒に仕事をすることを決めたのは、彼の過去の作品というよりも、この特定のプロジェクトそのものに魅力を感じたからです。