2025.10.29 [イベントレポート]
『ペリリュー 楽園のゲルニカ』原作者・武田一義氏、映画化の際「兵器が人体を破壊するさまをきちんと描いてほしい」と要望
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第38回東京国際映画祭で10月29日、シンポジウム「『桃太郎 海の神兵』から『ペリリュー 楽園のゲルニカ』まで 国産アニメーションは戦争をいかに描いたか」が、東京ミッドタウン日比谷 BASE Qで行われ、映画『ペリリュー 楽園のゲルニカ』の原作者・武田一義氏、東洋大学文学部准教授・堀ひかり氏、同志社大学文化情報学部准教授・佐野明子氏、MCとして同映画祭アニメーション部門プログラミングアドバイザーの藤津亮太氏が登壇した。

『ペリリュー 楽園のゲルニカ』は、戦争がもたらす狂気を圧倒的なリアリティで描き、第46回日本漫画家協会優秀賞を受賞した武田氏の同名戦争漫画を、「魔都精兵のスレイブ」などの久慈悟郎監督がアニメーション映画化。太平洋戦争末期、激戦が繰り広げられたペリリュー島を舞台に、死んだ仲間の最期を書き記す「功績係」を務める日本兵・田丸を主人公に、極限状態の中でも懸命に生きた若者たちの姿を描いた作品。

武田氏は、本作を描こうと思った動機について「初めは自主的に戦争漫画を描きたいという気持ちが自分の中から湧き上がってきたわけではありませんでした」と語ると、「ちょうど10年前の戦後70年の時に、白泉社さんの方で、戦争をテーマにした読み切り漫画を集めたムック本を出すという企画があり、そちらにまずお声がけをいただいたのです。その時、自分でも不思議なほどすぐに「描きたい」と思えたのです」と振り返る。

しかし、この段階ではまだ武田氏にとって「ペリリュー」という題材が頭にあったわけではなかったという。「ちょうど戦後70年の年に、天皇皇后両陛下がペリリュー島へ慰霊に訪れられたことがありました。私はその時までペリリュー島を知らず、そのことが強く印象に残っていたのです」。

そこから、原案協力とクレジットされている戦史研究家の平塚柾緒さんと会い、実際にペリリュー島から生還した人々を取材した経験を知ったという武田氏は「それまで私が漠然と抱いていた“戦争に行かれた方々”というイメージとは少し異なり、本当に何気ない普通の若者たちの姿だと感じました。そうした普通の若者たちが戦争に行き、そこにいたという、ありのままの姿を描きたいと思ったのが、「ペリリュー」を描き始めた最初のきっかけであり動機です」と語る。

戦争を経験していない武田氏が、戦争を描くということについて「もちろん当時のことをたくさん調べなければなりません。調べても分からないことや、実際はどうだったのか不明なこともあるでしょう。また、自分の描き方次第では、実際に戦争に行かれた方々やご遺族を傷つけてしまう可能性もあります。その意味では、他の作品を描く時よりも、強い覚悟が必要だったことは間違いありません」と強い意志を持って取り組んだという。

シビアな現実を描く作品。しかし武田氏の漫画は3頭身の可愛らしいキャラクターだ。そのことについて武田氏は「この絵柄は、もともと私のデビュー作である闘病記から生まれました。私自身ががんの闘病をした経験があり、その闘病記を描くことで漫画家としてデビューしたのですが、その際、病気という非常に辛い題材を、読者の皆さんに見やすく感じてもらうために、この3頭身の可愛らしい絵柄を考案しました。この考え方は、そのまま戦争というテーマにも当てはまると感じたのです」と説明する。

続けて武田氏は「どうしても辛い描写が続く漫画ですので、キャラクターのちょっとした可愛らしさなどで、少しでも読者の心を楽にできればと。そういった要素がなく“学習する”という意識では、漫画はなかなか読んでもらえない。「戦争について書かれた貴重な漫画だから学習のために読もう」というのではなく「面白いから読みたい」という動機で手に取ってもらえるようにするには、このキャラクターデザインは必須だと考えています」と持論を展開していた。

アニメ化の話が来た際、武田氏は「率直に、嬉しかったのと同時に驚きました。漫画で戦争を描くことの難しさを感じていましたし、たとえ自分が精一杯頑張って良いものを作ったとしても、やはり敬遠されがちな題材だとは考えていました。「ペリリュー」も、じわじわと少しずつ認知が広まっていった作品でしたので、アニメ化したいと東映さんからお話をいただいた時は、単純に嬉しかったです。ただ、同時に「これは大変だろうな」とは最初から感じていました」と率直な感想を述べていた。

映像化する際に気をつけたことは「僕が漫画を描く上で気をつけていた点を、アニメでも同様に気をつけていただきたいと考え、共有させていただきました。物語に含まれる要素、例えば、敵や味方のどちらが良い悪いという話ではなく、戦場のありのままを描くということ」と語ると「特にお願いしたのは、兵器が人体を破壊するさまをきちんと描いてほしいということ」と、しっかり戦争のむごさを表現してほしいということだったという。

戦後80年の今年公開される『ペリリュー 楽園のゲルニカ』への思いが武田氏から語られたあとは、1945年公開の国策映画『桃太郎 海の神兵』についての解説が、堀氏、佐野氏から語られる。日本初となる長編アニメーションとして位置付けられた本作を鑑賞した手塚治虫さんが「アメリカのアニメーションに匹敵するレベルのものが初めてできた」と話したことも紹介された。

堀氏は「私自身は大学院の時に初めてこのアニメーションをVHSで観ました。そのとき特に、出撃前の兵士の心情的な表現が非常に深みを持っており、それに圧倒されて以来、この映画のことは研究の中でも重要な位置を占めてきました」と作品を観たときの感想を述べていた。

『桃太郎 海の神兵』から『ペリリュー 楽園のゲルニカ』までの80年間。さまざまなアニメーション映画が“戦争”を描いてきた。武田氏は『桃太郎 海の神兵』について「戦中にこれだけクオリティの高いものが描かれていたことに感嘆しました」と感想を述べると、フィクションのなかで戦争を語ることについて武田氏は「体験者の持つリアリティとは別の、体験していないからこそ持つ客観性をしっかり入れること」と述べていた。
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