2025.10.29 [イベントレポート]
カンヌで話題の衝撃作『Sirāt(原題)』オリバー・ラクセ監督が語る音楽、自然、タイトル秘話
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開催中の第38回東京国際映画祭、ガラ・セレクション部門で10月29日、オリバー・ラクセ監督作『Sirāt(原題)』が上映され、ラクセ監督が観客とのQ&Aに応じた。

巨匠ペドロ・アルモドバルがプロデューサーとして名を連ね、本年の第78回カンヌ国際映画祭で審査員賞など4冠、第98回アカデミー賞スペイン代表に選出された本作は、失踪した娘を探すため、砂漠の国のレイブパーティに参加した父と息子に待ち受ける衝撃の体験をダイナミックに描き出す。

今年のカンヌ映画祭でサウンドトラックアワードも受賞、レイブシーンをはじめ、音楽が本作の重要な要素を担っている。主にテクノ音楽を用いた理由を問われると、「私自身、テクノ音楽が好きなのです。また、コーランも好きなので用いました。映画制作は自分の内面を見つめる作業なので、好きなものを入れ込みました。電子音楽は振動があるので、どんな楽器を使っているのかわからないあいまいさがあり、そこが刺激的だと思います。テクノ音楽から謎めいた部分、異国情緒、スピリチュアルな側面を出したかった」とその意図を明かす。

さらに、「音楽が大事なので、映画を作る時に私は一生懸命踊ったのです。脚本を書くときも、音楽を聞きながら雰囲気を作っていき、ここではこんな音楽を使おう……と参照を書き込んでいました。最終的な音楽の候補が決まってからは、一人の作曲家に依頼しました。レイブはカタルシスであり、心臓の鼓動のようなもの。旅の途中のシーンでは、原点に戻るというような流れの音楽を作りました」と解説した。

『Sirāt(原題)』というタイトルについては、「商業的ではないという理由でプロデューサーには反対された」と明かすも、「いろんな層が重なっていく物語なので、タイトルを決めるのがとても難しかったのです。私はこのタイトルが気に入っていましたが、外国語に翻訳するのが難しいのです。アラビア語やサンスクリット語で、「光と音楽を彷彿させるもの」という思想があるのです」と語る。

モロッコの砂漠地帯など壮大な自然が映し出される。過去作も自然溢れる風景が多用されていることから、気に入った場所からストーリーを決めるのか、ストーリーを決めてからロケーションを決めるのか? という質問には、「さほど意識はしていないが、ロケハンが好き」だと述べ、「自分自身、過去の作品で撮った自然の中で生活しています。私は自然は美しいから好きなのではなく、生きており、いろんなことを顕わにして、様々な刺激を与えてくれます。それを表現したいのです。映画の中で人間の人生、生活を描きますが、自然が守ってくれるような役割をしていると思います。自然のどこにでも神が宿っていて、私たちに刺激を与えると思うのです」と独自の考えを持っている。

そのほか、劇中の登場人物たちの設定や運命について質問が及ぶと、「私の意図が大事なのではなく、あなたがそう感じたらそれが正しいのです」と、観客の受け取り方を尊重している。「映画は考えるものではなく、感じるもの。私は登場人物たちに愛情を持って撮っています。観客のそれぞれの解釈が正しいと思います。はっきりした(答えのある)映画は作ろうと思えば作れますが、明暗のニュアンスを伝える――芸術とはそういうものだと思うのです」と自身の哲学を語った。

第38回東京国際映画祭は10月27日~11月5日まで、日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開催。
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