2025.11.02 [イベントレポート]
「観客の皆さんに強要したくないと思ったのは、主人公の選択が常に正しく正解ではないということです」10/30(木)Q&A『明日のミンジェ』

明日のミンジェ

©2025 TIFF

 
10/30(木)に、アジアの未来部門『明日のミンジェ』上映後に、パク・ヨンジェさん(監督)、イ・レさん(俳優)、キム・ソンウンさん(エグゼクティブ・プロデューサー) をお迎えし、Q&Aが行われました。
→作品詳細
 
司会:石坂健治シニア・プログラマー(以下、石坂SP):ゲストをお迎えしてお話を伺いたいと思います。それでは、拍手でお迎えください。一言ずつご挨拶をいただきたいと思います。
 
パク・ヨンジェ監督(以下、監督):こんばんは。映画『明日のミンジェ』で脚本と演出を担当しましたパク・ヨンジェと申します。お会いできて嬉しいです。
 
イ・レさん:こんばんは。ミンジェ 役を演じました。俳優のイ・レと申します。
 
キム・ソンウンさん:こんばんは。プロデューサーのキム・ソンウンと申します。よろしくお願いします。
 
石坂SP:イ・レさんに質問したいのですが、本物の陸上選手に見えました。実際に陸上をやっていらっしゃったのでしょうか。
 
イ・レさん: 撮影を行う前まで、一度も陸上をやったことがなかったのですが、この映画を通して陸上選手の役柄を演じましたし、トレーニングもしましたし、ランニングもしました。
 
──Q:カメラ演出が特徴的でした。意図を教えてください。
 
監督:この作品は、成長ストーリーを描いている作品です。この世の中について十分に熟知していない、きちんと分かっていない、至らない点が多い、そういったミンジェの考えを表現しようと思い、彼女の揺れる価値観や感情をカメラ監督さんと相談をしながら、揺れるカメラを通して描こうという風に決めました。
 
──Q:映画のテーマになってる出来事は、実際に韓国でよくあることなのか、実際の出来事を元に作られたのか、伺いたいです。
 
監督:韓国で映画のような事例がありました。完全に一致する内容ではなかったのですが、10年から15年くらい前に韓国内でこのような出来事が実際にありました。今でもインターネットで検索すると記事が出てくるほど、非常に記憶に残っている事件です。いまだに毎年このような事件が発生するわけではありませんが、そういうリスクがあり、いつでもこのような問題が水面上に浮かんでくる可能性があるということを考えて、過去の出来事を引っ張りだしました。最近は起きていないけれど、こういったことはまた起きるかもしれない。想像を働かせながらこのシナリオを描きました。
 
──Q:ミンジェ役を演じていて難しかったことを教えてください。
 
イ・レさん:ミンジェが大きく成長する前に様々な試練を経験する。そういった過程を描いている作品なので、選択をする前のミンジェの感情を表に出すべきなのか、あるいは隠すべきなのかについて非常に悩みました。どうしても、幼いキャラクターになりますので、感情に率直になるときもあれば、率直になれないときもある。そういったものをどのように込めようか、撮影中、いつも悩んでいました。
 
──Q:ミンジェとヘリム が海岸で対話するシーンで、ミンジェは陰にいて、ヘリムは光を浴びていました。二人が生まれ持ったものを表しているのでしょうか。
 
監督:いま仰った方の解釈というのは、非常に限られている解釈だと思います。私自身はそのようなことを意図していなかったのですが、非常にいい考えだなと思い、そうかもしれないと思いました。私の意図ですが、ヘリムが明るい外を見ている、現実を見ている、自由を得たい、暖かいところをみている、そういったところを光を通して表現をしようと思っていました。
 
石坂SP:今の質問に絡みますが、ヘリムというキャラクターも結構複雑ですよね。彼女についてどんな風に考えておられたのでしょうか。
 
監督:ヘリムという人物は、ミンジェとは違うもうひとつのストーリーを引っ張る小さな主人公だと考えております。ミンジェの選択と違う、そういった選択をする人として対比する人物、ストーリーをリードしていく人物として描いています。私は、ミンジェの選択の当為性をもたせてあげるためのキャラクターとして考えていました。私自身、ミンジェの選択が常に正しい、正解なんだということを、監督として皆さんに強要したくないという風に思いました。別の選択もあるという現実的な部分を見せたいという風に思いました。そういった人物としてへリンは描きました。なので、この作品を観た後に、ある方はヘリムに対して共感する、そしてある方はミンジェに対して共感する。そういった多重的なものを見せたい。多くの方々にこのストーリーを強要したくないという思いから、このヘリムというキャラクターを非常に精魂を込めて作ってきました。
 
──Q:こうすればよかったという後悔はありますか。
 
監督:率直に申し上げます。もちろんこの作品が完璧であるとは思いません。至らない点もたくさんあると思いますが、後悔はありません。私は時間を巻き戻したとしても、こういう風にしておけばよかったとか、未練や後悔といったものはありません。なぜかというと、私はこの作品を作る上で、本当に最善を尽くし、すべてを注ぎ込んだからです。心残りはありません。誤解のないように申し上げると、このように申し上げているのは、決しておごりや傲慢な態度から申し上げているわけではありません。
 
──Q:撮影中、大変だったことを教えてください。
 
監督:この作品は「走り」というものを扱っています。「走り」という種目で皆さんに面白みを与えなければならない。要は、作品を通して、感動プラス楽しみ・面白さを皆さんにお届けしなければならないと思いました。皆さんがご覧になって、この作品を面白いと思ってくださったかは分からないのですが、私自身は皆さんに面白さを与えたいと思い、一生懸命努力しました。
それで、私が種目として選んだのは100m走やマラソンではなく、「800m走」という中距離の種目を選びました。800m走は独特な魅力があります。自分が走らなければならないトラックが特に決まっているわけではなく、みんなが交じり合って走るので、なかには小競り合いがあったり、摩擦があったりします。そして、少し長めに走る800m走はトラックを2周周らなければならないので、その中でドラマチックな状況を描き出すことができます。それで、今まで映画であまり扱われることのなかった800m走という種目を選んだわけですが、それを作品の中で描いていくのが少し大変でした。こういったものが私にとって大きなチャレンジだったと思います。
 
石坂SP:ありがとうございます。プロデューサーのキムさんに伺いたいのですが、製作は順調でしたか?
 
キム・ソンウンさん:この映画が作られたのはちょうど1年前だったので、1年後に皆さんと劇場で会うことができました。製作をする上で非常に難しい部分はたくさんありました。「走り」というものを扱っている映画なのですが、それを準備する過程で難しさはありました。ストーリーやキャラクターに対し、監督がいろいろな考えを持っていたので、監督の考えている通りにプロダクションを準備するのも非常に大変で、プロデューサーとしてはチャレンジングでした。
 
──Q:人間だれしも、目的達成のために多少卑怯な手段を使いますが、良心の呵責働くこともあります。心の葛藤を描きたかったのでしょうか。
 
監督:そうです。正確に(この映画の)テーマをご指摘くださったと思います。良心に従ってとか、公正に、善の道、正しいことをずっとやり続けていくのが非常に難しい世の中であると思います。ですが、そういった小さいけれど意味のある、価値あるものをこの映画を通して描きたいと思っておりました。難しいテーマではありましたが、正面からそういったものを勇気を出して取り扱ってみました。
 
石坂SP:『明日のミンジェ』ワールドプレミア上映でございました。

プラチナム パートナー