2025.11.03 [イベントレポート]
「そういうところから来てる声が「ポカポン」ってことです」10/28(火)Q&A『POCA PON ポカポン』

38006NCN06

©2025 TIFF

 
10/28(火)、Nippon Cinema Now部門『POCA PON ポカポン』上映後、大塚新一さん(左:監督)、尾関伸次さん(右:俳優)をお迎えし、Q&Aが行われました。
→作品詳細
 
大塚新一監督(以下、監督):『POCA PON ポカポン』の監督と脚本の大塚新一と申します。今日はワールドプレミアでこんなにたくさん集まっていただいて、すごく嬉しいです。ありがとうございました。
 
尾関伸次さん(以下、尾関さん):本日は来ていただいてありがとうございます。大楠駿一役を演じました尾関伸次です。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
 
監督:会場には、山崎 ハコさんに来ていただいています。どちらにいらっしゃいます?
 
(会場拍手)
 
監督:みなさん、(山崎ハコさんの演技を)ご覧になったばかりで、すごく力強いお芝居をされていて、印象に残っていると思います。
 
司会:新谷理映 (以下、新谷さん):この作品は、監督と尾関さんお二人で企画が始まったと伺いましたが、この作品がスタートした経緯をお聞かせください。
 
監督:5年前に、前作の『横須賀綺譚 』(2020)という映画を撮っていて、次の映画を撮ろうと、色々模索してたのですが、2、3年ぐらいかけて書いた本の企画が頓挫してしまいまして…。自分でコントロールできる範囲の低予算で再スタートしようと思った時に、前々作(『アメリカの夢』 (2010))で一緒だった尾関さんと一緒に何かやりたいなと思いました。尾関さんは1980年生まれで、学年的には僕より1つ上です。尾関さんとやるにはどんな企画がいいかなと思った時に、「酒鬼薔薇事件」を企画してみたいと思いまして、それがスタートです。ただ、いろいろ調べていくうえで、そんなに面白い存在ではないなと思えたので、そこから全然違う話にドライブしていきました。そういう経緯で始まった企画です。
 
新谷さん:尾関さんは、監督からお声がかかってどのように答えましたか?
 
尾関さん:監督はいつも突然なんですよ。アポイントがなくて、突然来るものですから。今回の企画も、2022、23年に突然、新宿に呼び出されました。その時に、こういうことやりたいんだっていう3行ぐらいのプロットを持ってきて、「どうですか?」という話をしました。「面白いですね」というところから肉付けしていった形ですね。
 
監督:尾関さんの面白いところが、最初はもちろん尾関さん主演で話を進めてたのですが、「こちらの中学生を主人公にしましょうよ、僕じゃなく。」と言い出して。僕らもいい歳になって、こういう子どもたちを主演にして、あの時あった事件を未来へ足し算していくような映画にした方がいいんじゃないかというのがあって、それで原田(琥之佑 )君 にお願いしたという経緯でした。
 
新谷さん:大人ではなく子どもを主人公にするには、とても難しいテーマではなかったでしょうか?
 
監督:そうですね。気をつけたことは、「怪物誕生前夜」みたいな話になったら嫌だなって思いました。原田君がこれから第二の殺人鬼になるっていう見え方は避けたいというのがあって。でも、単純にこれをどう乗り越えていくかというのは、原田君と一緒に作っていったという感じで、僕も答えはわからない感じでした。
 
新谷さん:尾関さんは(原田さんと)一緒に共演されてみてどうでした?
 
尾関さん:当初、原田君の役は小学生の設定だったんですね。ですが、僕らが作っていくスピードが少し遅れた時期があって、そうすると、原田君はすごく成長しているわけです。撮影の時には、中学生ぐらいになっていたんですね。毎日毎日、彼は成長していますし、俳優としてもすごく成長している時期だったので、接しながら毎日が新鮮だったという記憶はあります。やっぱり、今でも会うと背が伸びていますし、下の弟役もそうですね。 
監督:クランクインまでに半年ぐらいかかって、「監督、この半年で10cm身長伸びちゃったんですけど、小学生でいいんでしょうか?」と言われて、「そりゃまずいね」みたいな(笑)。中学生に設定を変えようという、そんな経緯がありました。
 
━━ Q:劇中で、蝶々がたびたび登場します。どのような狙いで使ったのでしょうか。
 
監督:多少使える予算があり、何か追撮をしたかったんですよ。カメラマンの永山(正史) さんと「実景の追撮ができる」って話した時に、永山さんに「欲しいカットあります?」と聞かれて、僕が「自然のものを撮ってきてほしい」と。例えば、虫とか動物とか。それはどういうことかっていうと、僕は人間ドラマを描いたんですけど、人間のドラマと全く関係のない動物の視線をもっとたくさん入れたいと。誰かが誰かを殺したとか、誰かが誰かを愛してますとか、それだけで人間ドラマって進行するんですけど、そうしたドラマと全く関係ないところに、動物たちの「お前らの意思なんか関係ないよ」という視線があって。それをもっとたくさん入れたいなと思ったときに、この予算では動物たちを撮る余裕はないですと言われて。CGでやった方がいいかもしれないとなって、CGで映える動物って何だろうと考えたときに、蝶々っていうのが出てきたっていう経緯です。
 
━━ Q:劇中で登場する音楽ですが、あの音楽を使用した意図をお聞かせください。
 
監督:前作の『横須賀綺譚』で震災の映画を撮って…。例えば、自然というのは、人間の都合なんか考えずに、人を癒やしもするけれど、人を破壊もする。多くの人を飲み込んで殺してしまう。でも時折、緑のキラキラを見て、ああ、いい天気だなって思った時に、心が穏やかになったりもするという。なんか、そういうところから来てる声が「ポカポン」ってことです。これも別に、僕の答えを言ってもしょうがないですから、僕はなんとなくそういうイメージを持っていたっていう程度に過ぎないのですが、それが答えになっているかどうか…。
 
尾関さん:でも、今おっしゃっていただいた見方っていうのも非常に面白いし、ありがたいですよね。
 
━━ Q:タイトルロールで『POCA PON ポカポン』の「カ」の字が平仮名になっていたり、ポスターの『POCA PON ポカポン』の「ポン」が反転したりしています。どんな意味合いが込められていますか。
 
監督:もともと初稿には、「ポカポン」ってなかったんですよ。二稿目ぐらいから『POCA PON ポカポン』って入れたんです。どこから引っ張ってきたかというと、太宰治の「トカトントン」 (1947)という小説があって。どういう小説かというと、戦前と戦後で価値観がガラッと変わって、仕事でも出世して、結婚もして幸せ、充実を感じた瞬間に「トカトントン」って音が聞こえて、全てが虚しく感じるっていう小説です。何をやっても虚しくなってしまう…。「トカトントン」って聞こえる、そこから引っ張ってきて、『POCA PON ポカポン』なんですけど。今回の映画とは意味合いがだいぶ違うので、そのまま「トカトントン」としたら、お客さんが混乱するだろうなと思って、『POCA PON ポカポン』になりました。その時に、単なる言葉じゃなくて、少しノイジーな感じにしたら、そのイメージに近いかなとか思って。ローマ字と平仮名とカタカナを、ごちゃまぜにした感じで書いていたんです。でも、そういうのって、タイトルにされても困るといろんな人から言われて(会場笑い)。「まぁ、そうですよね」みたいな感じで、落ち着きました。
 
新谷さん:映画の中で尾関さんが「ポカポン」って言うあのセリフも、すごく怖かったです。
 
尾関さん:僕も怖いです(笑)初稿を読んだ時はやっぱりすごく怖かったです。
 
新谷さん:今回、役作りはどのようにされましたか?とても難しい立ち位置だったと思いますが。
 
尾関さん:企画の段階から監督と練っていたので、全体的なざっくりとしたビジョンは非常に作りやすかったです。さっきご質問いただいた方が1979年、1980年生まれで、(その世代にとって酒鬼薔薇事件は)やっぱりすごくセンセーショナルな事件でしたし、マイナスなイメージとしてすごく象徴的なものだったので。僕の中では、役を作っていくのはそんなに難しくなかったです。ただ、肉を食べないとか、そういうディティールがやっぱり出てくるものですから、そのあたりは自分が実体験しないと説得力が生まれないということもあって、撮影の1~2か月ぐらい前から、実際に肉は一切食べずに、野菜を食べていました。監督からのアドバイスで、途中の段階で送られてきたプレゼントがガンジーの本で、「これを読め」と(笑)。
 
監督:ガンジーの衣食住について書かれてた本があって(笑)。
 
新谷さん:遠回しに「食べるな」と(笑)。
 
監督:食べるな。そうです。むしろ、酒鬼薔薇役をやったのにどんどん穏やかな性格になっていったんです。
 
尾関さん:そうですね、全く角がなくなっていって。でもそれがかえって、今回の俊一という役に合っていたような気がしていますね。今、こうして観ると。
 
新谷さん:尾関さんはお肉を食べなかったけれど、監督は撮影中や事前準備の間は?
 
監督:前も撮影中も今も食べています(会場笑い)。
 
━━ Q:山崎ハコさんが力のある演技をされています。山崎ハコさんをキャスティングされた経緯をお聞かせください。
 
監督:ハコさんが目の前にいるんで、どう答えようっていう(笑)弱ったなと。正直なことを答えますと、最初は烏丸せつこさんにお願いしていました。僕の前の映画にも出ていただいていました。烏丸さんが出演できないとなり、最初に想定した役者さんがだめになった場合、僕は、全然違う人にしたいなと思っていました。もともとのイメージキャストの二番手って人を選んだら、現場は頑張れないんですよ。そこで、烏丸さんに似た感じの二番手の役者さんじゃなくて、ちょっとイメージ変えようと思った時に、ハコさんが出てきたという経緯があります。
 
新谷さん:せっかくなので、(会場にいらっしゃるハコさんから)一言いただきますか?
 
監督:そうですね。嬉しいですね。
 
山崎ハコさん:烏丸さんの話は、今、初めて知りました。(会場笑い)烏丸さんはきれいですよね。
子どもたちのシーンでは、何度も何度も撮影して子どもたちが半べそになりながらやった短いシーンでしたが、名古屋の地元の子どもたちが一生懸命だったことを皆さんに知ってもらいたいです。所長さんみたいな人が何度も何度も説明してやっていました。私はそれを地元で見守るような役でした。子どもが殺されても、子どもたちをやっぱり見てるわけですね。そういう役なんだなと思いました。
監督たちが、はっきり答えを出さないこの映画。「ポカポン」が聞こえると事件が起こるみたいな、そういうことも示唆している。みんなが持っている、ちょっと怖いこと。でも、間が抜けたような恐ろしいことをしてしまう。そんな雰囲気とは逆に、私は、ちょっとリアルに考えました。セリフは決まっていますが、思うことは自由なので、どれだけ深く考えてもいいんだと思って、リアルに少し考えました。腹が立つことなんて毎日のようにある。でも、理性があるし、人間が動物と違うところはそこなんだと、ずっと言い聞かせているんですね。本能ではなくて、それをぐっと抑える理性があるとずっと思っています。そう思うことで、それはやらない。そんなことはしないと普段思って生きているけれど、この映画は、猟奇の方なんですね。だけど、被害者がいますよね。被害者の親もいますよね。家族がいる。魔が差したように事件を起こすとどれだけの人が傷つくのか。そういう人たちが、どれだけ大勢いるのかっていうことを思いながら、被害者の役を演じました。
下手なので、役(演技)はちっともできないですが、思うことは役じゃないのでいいと思ってやりました。もともとは50年も歌手をやってる歌い手なんで、芝居はできないです。でも、「思う」ことはできると思って、一生懸命やりました。作品を観たときに、少しは「痛く」なってるなと。あの人は本当に傷を背負って、年を取った老けた顔をしているけれど。(歌手として)ステージの時は綺麗にするけれど、あれでよかったんだと思えるくらい痛い感じがあって。監督にチャンスを与えてもらって、また、烏丸さんとは違う、下手ですけど、体当たりで歌手が演技しましたっていうところを皆さんにわかってもらって、「ハコ、頑張った」って思ってもらえればと思います。ロケ現場の名古屋の人にも観てもらいたいと思いました。今日は観ていただいてありがとうございます。「いいよ」って言ってくれたらもっと嬉しいです。
 
監督:ありがとうございます。
 
新谷さん:最後に、監督からメッセージをお願いします。
 
監督:感想で「凄惨な話なのに、なぜか癒やされたというか、じんわりきた」と言われました。このような、何とも言えない、アンビバレントな心境を持って家に帰っていただけたら、それだけで僕は嬉しいです。
 
新谷さん:尾関さんも最後に一言お願いします。
 
尾関さん:監督が今言ってくれたことが全てな気がして。僕がやりたいって思ったことを彼が書いてくれて、見せてくれたので、僕はそこに乗っかるだけだったので、一緒にやっていて楽しかったですし、またいつか一緒にやりたいなと、当然思っていますね。
 
監督:3部作ね(笑)
 
尾関さん:3部作で。あ、ちょっとだけ言うと、実は一番最初にタッグを組んだ1本目の作品は公開できませんでしたけれど、その主人公の名前も今回と同じなので、2本目なんです。
 
新谷さん:なるほど。期待しております。
 
尾関さん:本日はどうもありがとうございました。

新着ニュース
  • ショートドラマ特別企画。期間限定で無料話拡大!
  • 都営交通キャンペーン
  • 寄り道から始まる、とっておきの時間。丸ビルで『Marunouchi Yorimichi Stand』開催!
プラチナム パートナー